Object Request Broker

オブジェクトリクエストブローカー（ORB）は、分散コンピューティング環境における重要なミドルウェアであり、ネットワークを介して異なるコンピュータ間でプログラムの呼び出しを可能にします。これは、あたかもローカルのオブジェクトを操作するかのごとく、リモートのオブジェクトのメソッドを呼び出すことを可能にする技術です。

ORBの中核となる機能は、データのシリアライズとデシリアライズです。シリアライズとは、プログラム内で扱われるデータ構造を、ネットワークを介して転送可能なバイト列に変換する処理です。逆に、デシリアライズとは、受信したバイト列を元のデータ構造に復元する処理を指します。これにより、異なるプラットフォームやアーキテクチャを持つコンピュータ間でも、データの一貫性を保ちながら通信を行うことができます。

かつては、遠隔手続き呼出し（RPC）が一般的な分散通信手段でしたが、オブジェクト指向プログラミングが普及するにつれて、より柔軟で高度な機能を提供するORBが主流となりました。特に、CORBA（Common Object Request Broker Architecture）のように、インタフェース記述言語を用いて転送データの構造を定義することで、異なる言語で実装されたオブジェクト間でもシームレスな連携が可能になりました。

ORBは、単なるデータ転送の仕組みに留まらず、分散トランザクション、ディレクトリ・サービス、リアルタイムスケジューリングといった、より高度な機能を提供する場合があります。これらの機能は、複雑な分散システムの構築と管理を支援し、システムの信頼性とパフォーマンスを向上させる上で重要な役割を果たします。

オブジェクト指向言語環境においては、ORB自体もオブジェクトとして扱われ、クライアントオブジェクトがORBに接続するためのメソッドが提供されます。クライアントオブジェクトがORBに接続されると、リモートのオブジェクトのメソッドを呼び出すことができるようになります。この際、ORBは、リモートオブジェクトのネットワークアドレスを何らかの手段で取得する必要があります。一般的には、ネームサービスやディスカバリープロトコルを利用して、オブジェクトの所在を特定します。

ORBの実装は多岐にわたります。Windows環境で利用されるCOM/DCOMや、Javaプラットフォームで用いられるJava RMI、そして上述のCORBAなどが代表的です。これらの実装は、それぞれ独自の特性を持ち、特定のプラットフォームやニーズに合わせて利用されています。

ORBは、分散システムの基盤となる重要な技術であり、現代のエンタープライズシステムやクラウドコンピューティング環境において、不可欠な要素となっています。ORBの活用により、複雑な分散アプリケーションを効率的に開発、運用することが可能になり、システムの柔軟性、拡張性、可用性を向上させることができます。

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