P・T・バーナム

フィニアス・テイラー・バーナム：19世紀アメリカを席巻した興行師の生涯

フィニアス・テイラー・バーナム (1810-1891) は、19世紀アメリカで最も成功した興行師の一人として知られています。彼の名は、巧妙な宣伝と、エンターテインメントへの革新的なアプローチによって、現代社会にも大きな影響を与え続けています。

華麗なる興行師としてのキャリアの始まり

コネチカット州で宿屋兼商店主の息子として生まれたバーナムは、若い頃は商店を経営していましたが、失敗に終わります。その後、ジャーナリストとして活動するも、名誉毀損で投獄されるなど、波瀾万丈な人生を送ります。しかし、これらの経験が、後の彼の興行師としての成功の礎になったと言えるかもしれません。

バーナムのキャリアの転機は、1835年に160歳を超えると言われる黒人女性ジョイス・ヘスを買い取って見世物にしたことです。巧みな宣伝で人々を魅了し、アメリカ全土を巡業、莫大な利益を得ました。ヘスの実際の年齢は80歳以下であったことが判明したものの、バーナムの興行手腕の高さは疑う余地がありませんでした。

「バーナムのアメリカ博物館」と人気スターの誕生

その後、バーナムは「スカダーのアメリカ博物館」を買収し、「バーナムのアメリカ博物館」と改称。博物館を拠点に、様々な興行を行い、アメリカで最も人気のあるエンターテインメント施設の一つへと成長させました。

この博物館では、彼が発見・育成した「親指トム将軍」ことチャールズ・ストラットンが大きな人気を博しました。ストラットンは小人症でしたが、バーナムは彼の才能を最大限に活かし、世界中で成功を収めました。また、バーナムは、アメリカ先住民のダンス団を結成し、伝統的なダンスを披露するなど、多様なエンターテインメントを提供することで、人々の心を掴みました。

ヨーロッパ進出と心霊主義ブームへの貢献

1844年から1845年にかけては、「親指トム将軍」を連れてヨーロッパを巡業し、ヴィクトリア女王にも謁見しました。また、霊媒師として有名なフォックス姉妹の交霊会を興行し、当時アメリカでブームとなっていた心霊主義に一役買いました。

スウェーデンの有名な歌手ジェニー・リンドとの契約も、バーナムのビジネスセンスとショーマンシップを示すエピソードです。一晩1000ドルという破格のギャラで150公演契約を結び、大成功を収めました。

サーカス興行と「地上最大のショー」の誕生

1855年に一度は興行界から引退したバーナムでしたが、債務を理由に1857年に復帰。そして、1871年にはサーカス、動物園、フリークショーなどを組み合わせた大規模な巡業ショー「地上最大のショー」を設立します。

その移動手段として、1872年にはサーカス業界で初めて興業列車を導入。これは、サーカス団の規模拡大に伴う移動の困難さを解決するための画期的なアイデアでした。このアイデアは、後に多くのサーカス団によって模倣されることとなります。

1881年には、ジェームズ・アンソニー・ベイリーと合併し「バーナム・アンド・ベイリー・サーカス」を結成。その象徴的存在として、ロンドン動物園から購入したアフリカ象のジャンボは、大衆を熱狂させました。

バーナムの遺産

バーナムは1891年に亡くなりましたが、彼のサーカスは1907年にリングリング兄弟に売却され、「リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカス」として2017年まで存続しました。彼の功績は現代においても高く評価されており、LIFE誌が1999年に発表した「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」にも選出されています。

バーナムは、エンターテインメントの概念を大きく変え、現代のショービジネスの先駆けとなったと言えるでしょう。彼の成功の秘訣は、優れたビジネスセンスだけでなく、人々の心を掴むための創意工夫と、常に新しいエンターテインメントを生み出そうとする情熱にあったのではないでしょうか。彼の生涯は、エンターテインメントの歴史を語る上で欠かせないものです。

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