Peregrine Mission One

ペレグリン・ミッション・ワン（PM1）

ペレグリン・ミッション・ワン（PM1）は、アメリカの宇宙企業であるアストロボティック・テクノロジー社が実施した、月面への無人着陸を目指すミッションです。同社にとって初めての月着陸計画であり、2019年5月にはNASAの商業月面輸送サービス（CLPS）プログラムにおいて、月への物資輸送を担う最初のミッションの一つとして選定されました。

PM1ミッションで使用された月着陸機「ペレグリン」は、アストロボティック社が開発した機体です。かつてGoogle Lunar X Prizeへの参加を目指す中で開発が始まりました。

ペレグリン着陸機の概要

ペレグリン着陸機は、月面まで最大100キログラムのペイロードを運搬でき、着陸後には最大192時間の運用が可能であるよう設計されていました。PM1では、月の北半球にある「死の湖」領域への着陸が計画されており、これに合わせてソーラーパネルは機体上部に配置されていました。

機体構造は、アルミニウム製のアイソグリッド構造を採用しています。推進システムは、5基のメインエンジンと12基の姿勢制御用スラスタで構成され、自己着火性を持つハイパーゴリック推進剤を使用します。燃料はモノメチルヒドラジン、酸化剤にはMON-25（窒素酸化物混合物）が使われており、特にMON-25は氷点下でも凍結しにくい特徴を持ちます。

航法・姿勢制御には、スタートラッカー、太陽センサー、慣性計測装置などを利用します。月面着陸時の精密誘導には、NASAと共同開発した実験的な光学センサーシステム「OPAL」が用いられる計画でした。これは、カメラ画像と機内地図を比較して自律的に着陸場所を調整する機能を持っています。地球との通信はXバンド帯で行われます。

搭載ペイロード

PM1には、NASAの科学観測機器、学術機関や国際機関が開発した装置、さらには民間の多様なペイロードが搭載されました。

NASA CLPSペイロード: 月面環境などを調査する観測機器。
LETS
NIRVSS
NSS
PITMS
レーザーリトロリフレクターアレイ (LRA)
その他の宇宙機関・学術機関ペイロード:
COLMENA: メキシコ宇宙機関の超小型月面ローバー5台。
Iris月面ローバー: カーネギーメロン大学の4輪小型ローバー。
M-42放射線検出器: ドイツ航空宇宙センター（DLR）製の放射線測定装置。アルテミス1号にも類似品搭載。
その他の民間ペイロード:
LUNAR DREAM CAPSULE PROJECT: 大塚製薬のタイムカプセル。ポカリスエット粉末やメッセージ記録を収容。
Lunar Bitcoin: セイシェルのBitMEX社による物理的なビットコイン硬貨。
Bitcoin Magazine Genesis Plate: アメリカのBTC INC.による最初のビットコインを模した金属板。
DHL MoonBox: 有償で物品を搭載できるカプセル群（28個）。多様な記念品やアイテムが収納されました。
LUNA 02: セレスティス社による宇宙葬サービス用の遺灰カプセル。

ミッションの経過と結果

PM1ミッションは、2024年1月8日、ULAのヴァルカン・セントールロケットで打ち上げられ、ペレグリン着陸機は無事分離されました。しかし、分離直後に推進システムに異常が発生し、燃料の漏洩や姿勢制御の困難が生じました。これは燃料バルブの問題が原因と推測されています。

この異常により、月面への軟着陸は不可能と判断されました。アストロボティック社は機体の延命を図りましたが、最終的には月到達を断念し、地球周回軌道を経て大気圏へ再突入させる経路を選択しました。ペレグリン着陸機は、2024年1月18日に地球大気圏で燃え尽き、ミッションは終了しました。

PM1ミッションは計画通りの成功には至りませんでしたが、CLPSプログラム初期の試みとして、また民間による月輸送サービスの可能性を示すものとして、今後の宇宙開発に貴重な経験とデータをもたらしました。

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