R.U.R.

ロッサム万能ロボット会社(R.U.R.)：ロボット誕生と反乱の物語

カレル・チャペック作の戯曲『R.U.R.』（原題:Rossumovi univerzální roboti）は、1920年に発表されたSF作品であり、「ロボット」という言葉が初めて使用されたことで知られています。単なるエンターテインメント作品にとどまらず、当時、オーストリア・ハンガリー帝国からの独立を果たしたばかりのチェコ社会の、労働者階級と富裕層との間の深刻な階級対立、貴族階級の没落、社会主義革命の脅威といった社会情勢を反映した作品でもあります。また、チャペック自身もゴーレム伝説からの影響を認めており、これらの要素が複雑に絡み合い、独特の世界観を構築しています。

ロボットの設定：人工生命体の創造と限界

劇中に登場するロボットは、ロッサム万能ロボット会社によって製造された人造人間です。現代でいうバイオノイドに近い概念と言えるでしょう。人間の労働力を代替する、安価で効率的な労働力として開発され、世界中に普及しています。

ロボットの製造工程は、人工原形質の培養、神経や血管の紡績といった高度な技術を駆使しており、その一部は企業秘密となっています。完成したロボットは、基本的な労働遂行に必要なプログラムが組み込まれており、高度な知能を持ちますが、プログラム外の思考は行いません。感情や痛覚、死への恐怖といった人間の感情も持ち合わせていません。また、外見は男性型、女性型に作られますが、本質的には無性で生殖能力はありません。寿命は約20年と設定されており、寿命が尽きたり故障したロボットは粉砕処分されます。

物語：楽園からの転落

舞台は未来のある孤島にあるR.U.R社の工場です。ここで製造されたロボットは世界中へと送られ、人間の生活を便利にしています。ある日、社長であるハリー・ドミンのもとに、同社会長の娘であるヘレナ・グローリーが訪れます。ヘレナはロボットにも心があると信じ、人権団体の代表としてロボットの権利向上を訴えます。しかし、ドミンはロボットに心などないと反論し、ロボットによって人間は労働から解放され、豊かな生活を手に入れたと主張します。この対立が物語の始まりとなります。

その後、ドミンとヘレナは結婚しますが、子供は生まれません。これは、人類がロボットに労働を依存するようになった結果、人間の生殖能力が低下したことを示唆しています。ロボットの反乱が勃発し、島はロボットの手に落ちます。これは、ヘレナの依頼でガル博士がロボットに「魂」を与えたことが原因でした。

第2幕では、ロボットが人間を圧倒し、支配下に置く展開となります。ドミンは、ロボットに不可欠な人工生命製造の秘伝書を燃やしたヘレナを責めます。ブスマンは秘伝書を盾に交渉しようとしますが、失敗し殺害されます。残された人間たちは抵抗しますが、アルクイスト以外の全員が殺されます。

第3幕：新たな創造

第3幕は、秘伝書の消失により絶滅の危機に瀕するロボットたちと、唯一生き残ったアルクイストの物語です。ロボットたちはアルクイストを生き神として崇拝し、人工生命の秘伝を解明するよう懇願します。しかし老齢のアルクイストにはそれは不可能でした。ヘレナに似たロボットとプリムスが現れ、プリムスは自らの解剖を提案します。アルクイストは二人の愛と魂を見出し、新たなアダムとイブとして二人を送り出すのです。

エピローグとその後

物語は、アルクイストの独白で締めくくられます。「神よ、人間の作り出したくだらぬものはすべて時と共に消え失せました。ただ生命が、生命だけが、不滅です！」

この戯曲は、チェコ語で書かれたのち、多くの言語に翻訳され、世界中で上演、映画化されています。1935年にはソビエト連邦で映画化されましたが、これはチャペックの作品とは異なる物語でした。近年では、2021年に日本で100周年記念作品として映画化されています。日本語訳も多数存在し、現在でも読み継がれ、現代社会にも通じる問題提起を行う重要な作品となっています。

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