RD-0146

RD-0146は、ロシアで開発された先進的な低温液体燃料ロケットエンジンです。特筆すべきは、ロシアのキマフトマティキ設計局（KBKhA）とアメリカのプラット＆ホイットニー・ロケットダイン（PWR）という、東西の主要な宇宙技術企業による国際共同開発の産物である点です。このエンジンは、アメリカの信頼性の高い上段用エンジンRL-10に匹敵する性能を目指して設計されました。

技術的な特徴

RD-0146は、ロシアの液体ロケットエンジン技術に新たな地平を開くいくつかの革新的な特徴を備えています。

エキスパンダーサイクル: ロシアのエンジンとしては初めて、推進剤が燃焼室やノズル内を流れる際に吸収する熱エネルギーを利用してタービンを駆動するエキスパンダーサイクルを採用しました。この方式は、従来のガス発生器サイクルに比べて構造がシンプルであり、システムの信頼性向上に大きく寄与します。
ガス発生器の排除: エキスパンダーサイクルの採用により、タービン駆動用のガスを生成するガス発生器が不要となりました。これにより、部品点数が削減され、特に複数回にわたるエンジンの再着火性能と信頼性が飛躍的に向上しています。
非冷却式伸展式ノズル: 高度の上昇に伴い変化する外部圧力に対して、最適な性能を発揮できるよう、ノズルスカートを伸展させる機構を備えています。しかも、このノズルは冷却が不要な設計となっており、構造の単純化と軽量化に繋がります。伸展式ノズルは、真空中での比推力を最大化するために重要な要素です。
推力制御と再着火: RD-0146は2軸方向の推力制御が可能で、これによりロケットの姿勢を正確に制御できます。また、ガス発生器を持たないエキスパンダーサイクルの特性を活かし、複数回の再着火を高い信頼性で行うことができます。
* 高速ターボポンプ: エンジンの性能を支えるターボポンプは、開発当時としては量産されたものの中で最も高速に回転するものの一つであり、毎分123,000回から125,000回という驚異的な速度で駆動します。この高速回転を実現するためには、高度な材料技術と精密な製造技術が必要とされました。

開発の歩み

RD-0146の開発プロジェクトは、1990年代後半にロシアのクルニチェフ国家研究生産宇宙センターからの具体的な要求によって動き出しました。1997年、クルニチェフはKBKhAに対し、更新されるプロトンロケットや将来のアンガラロケットシリーズの上段用として、推力約100 kN級で高高度性能に優れた新型低温エンジンの開発を打診しました。特に伸展式ノズルの搭載が求められました。この要求を受けて、1999年にはクルニチェフがKBKhAに対し、プロトンとアンガラ両方に対応可能なRD-0146Uの開発を正式に発注。開発資金の一部は、協力関係にあったアメリカのPWRからも提供されました。国際協力はビジネス面にも及び、2000年4月7日には、KBKhAとPWRの間で、PWRが独立国家共同体（CIS）以外の市場におけるRD-0146の国際的な販売権を取得する合意が締結されました。開発においては、システムの単純化と信頼性の極限的な向上が主要な目標とされましたが、特に高速回転する2基のターボポンプを連携させる技術が大きな壁となりました。KBKhAは集中的にこの課題に取り組み、2009年10月にはターボポンプの開発が最終段階に達したと報告されています。これは、彼らの技術力の高さを示す出来事でした。

採用計画と派生型

開発されたRD-0146は、複数の重要な宇宙ミッションでの使用が計画されました。2009年、ロシア連邦宇宙局は、当時開発が進められていた次世代有人宇宙船PPTSを打ち上げるためのRus-Mロケットの第2段エンジンとして、RD-0146の採用を決定しました。これは、このエンジンが有人ミッションに求められる高い信頼性を備えていると評価されたことを意味します。また、クルニチェフが進めるアンガラロケットシリーズの上段エンジンとしても引き続き計画され、特に重装型のアンガラ-A5向けには、改良型のRD-0146Dが搭載される予定でした。さらに、将来的な技術的な展望として、クリーンな燃料である液化天然ガス（LNG）を使用することを想定した派生型、RD-0146cの開発構想も存在しました。これらの計画は、RD-0146がロシアの将来の宇宙輸送システムの中核を担う可能性を示していました。

RD-0146エンジンは、ロシアとアメリカの異例の国際共同開発によって生まれ、エキスパンダーサイクルや伸展式ノズルといった先進技術をロシアで初めて実現した画期的なエンジンです。その高い性能と信頼性は、次世代のロケットや有人宇宙船の実現に向けた重要な一歩となるはずでした。

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