RIT (アルバム)

リー・リトナー『RIT』：フュージョン・ギターの金字塔

1981年、アメリカ合衆国のフュージョン・ギタリスト、リー・リトナーが発表したアルバム『RIT』は、彼のキャリアの中でも特に重要な作品として知られています。このアルバムは、商業的な成功と音楽的な評価の両面で高い成果を収め、リトナーの名を世界に知らしめることとなりました。

歌とインストの融合：多彩な楽曲構成

『RIT』の特徴は、歌入り楽曲とインストゥルメンタル楽曲が半々ずつ収録されている点です。ボーカルには、オランダを拠点に活動していたアメリカ人ボーカリストのエリック・タッグが主要な役割を担い、10曲中5曲で歌声を披露しています。さらに、ビル・チャンプリンもボーカルとして参加、楽曲に深みと多様性を与えています。特に、エリック・タッグはリトナーが過去にギター演奏で参加したアルバム『スマイリン・メモリーズ』(1975年)にも関わっており、二人の長年の関係性がうかがえます。スライ＆ザ・ファミリー・ストーンの楽曲「(You Caught Me) Smilin'」のカヴァーも収録されており、70年代の音楽へのオマージュを感じさせます。

プロデューサーとしての転機

リトナー自身は、2015年のインタビューで『RIT』について、「自分がプロデューサーであることを意識する転機になった」と語っています。これは、単なる演奏家としてではなく、音楽全体の制作、方向性を決定する役割を担うようになったことを示しており、彼の音楽家としての成長を象徴する出来事と言えるでしょう。

大きな商業的成功と高い評価

『RIT』は、アメリカ合衆国の総合アルバムチャートBillboard 200で26位にランクインするなど、商業的な成功を収めました。これは、リトナーの作品としては異例であり、彼の唯一の全米トップ40アルバムとなりました。さらにBillboardのR&Bアルバム・チャートでは20位を記録、その人気を裏付ける結果となっています。シングルカットされた「Is It You?」もBillboard Hot 100で15位に達するヒットを記録しました。

また、音楽性の高さも高く評価され、第24回グラミー賞では、アルバムB面の楽曲が最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞にノミネートされました。国際的な評価も高く、ノルウェーではチャート入りを果たし、9週に渡ってトップ40にランクイン、最高位17位を記録しました。日本でもオリコンLPチャートで41位に達し、ソロ名義としては4作目、グループ名義の作品を含めると7作目のトップ100入りとなりました。

ただし、すべての批評家が好意的だったわけではありません。オールミュージックのThom Jurekは、5点満点中3点を付け、「それといった特徴のないポップを収めた、単調で想像力を全く欠いた作品」と評しています。これは、商業的な成功の裏で、音楽評論家からは必ずしも高い評価を得ていないことを示すもので、多様な解釈が可能な作品であると言えるでしょう。

参加ミュージシャンと楽曲

『RIT』には、リー・リトナーを始め、エリック・タッグ、ビル・チャンプリン、デイヴィッド・フォスター、リチャード・ティーなど、当時第一線で活躍していた多くのミュージシャンが参加しています。それぞれのミュージシャンの個性と技術が融合することで、洗練されたサウンドを作り上げていることが特徴です。楽曲は、リー・リトナーが中心となって作曲されていますが、共作やカヴァーも含まれており、多様な音楽性を示しています。インストゥルメンタル楽曲も魅力的で、リトナーの卓越したギターテクニックを堪能できます。

まとめ

『RIT』は、商業的な成功と音楽的な評価の両面で高い成果を収めた、リー・リトナーの代表作の一つです。歌ものとインストゥルメンタルのバランス、豪華なミュージシャン陣、そしてリトナー自身の高い音楽性が三位一体となった、時代を超えて愛されるフュージョン・アルバムと言えるでしょう。しかし、一方で、音楽評論家の評価は必ずしも一様ではなく、その音楽性については様々な解釈が可能です。このことは、このアルバムが単なる商業作品ではなく、音楽史に刻まれるべき重要な作品であることを示唆していると言えるでしょう。

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