RORSAT

RORSAT：ソ連の原子力海洋偵察衛星

RORSAT（Radar Ocean Reconnaissance SATellite）は、ソビエト連邦が1967年から1988年にかけて運用したレーダー海洋偵察衛星シリーズの西側における呼称です。その正式名称はUS-A（Upravlyaemyj Sputnik Aktivnyj）で、17K114 レゲンダ・システムの一部として、西側諸国の艦船監視を目的としていました。

低軌道と原子力

レーダーによる海洋観測には、高い精度が求められます。レーダー電波の反射強度が距離の4乗に反比例して弱まるため、高解像度の観測には衛星を地球に比較的近い低軌道（約250km）に配置する必要がありました。しかし、低軌道では大気抵抗の影響を受けやすく、衛星の軌道高度が徐々に低下してしまいます。この問題を解決するために、RORSATは電力供給源としてウラン235を利用するBES-5原子炉を搭載していました。原子炉は長期間の運用を可能にし、安定した電力の供給を確保しました。

ミッションと廃棄

通常、RORSATは2～3ヶ月のミッションの後、原子炉部分を分離し、高度800～950km程度の円軌道（墓場軌道）に廃棄されました。これにより、地球への放射性物質の落下リスクを軽減する対策が取られていました。しかしながら、いくつかの事故により、この計画が必ずしも成功したわけではありません。

主要な事故

RORSATの運用中にはいくつかの事故が発生し、放射性物質が地球上に落下する事態を引き起こしました。

1973年4月25日: 打上げ失敗により、原子炉が日本北方の太平洋に落下。アメリカ合衆国の航空機によるエアサンプリングで放射線が検出されました。
コスモス954号（1978年1月24日）: 原子炉部分の高軌道投入に失敗し、大気圏に再突入。カナダのノースウエスト準州に放射性物質を含んだ残骸が落下しました。これは特に大きな事故として記憶されています。
コスモス1402号（1983年2月7日）: 高軌道への移動に失敗し、原子炉部分を含む衛星が複数に分解しながら大気圏に再突入、南大西洋に落下しました。
その他にも、コスモス367号やコスモス1900号など、いくつかの衛星で軌道投入や原子炉分離に失敗した事例があり、その都度、放射性物質の落下リスクが懸念されました。

残された懸念：デブリとNaK

RORSATは、低軌道における大きな宇宙ゴミ（デブリ）発生源でもありました。原子炉分離の際に、主冷却システムから約128kgのNaK-78（ナトリウムとカリウムの合金）が漏れ出し、微小な液滴から最大直径5.5cmもの大きな液滴が軌道上に残存しています。これらの液滴は、大気圏再突入すれば燃え尽きると考えられていますが、軌道上では他の衛星との衝突リスクが存在し、宇宙空間における安全性を脅かす存在となっています。

米国との比較：SNAP-10A

RORSATはソ連の原子力衛星でしたが、アメリカ合衆国も原子力衛星SNAP-10Aを開発・運用しています。1965年4月3日に打ち上げられたSNAP-10Aは、約1,300kmの極軌道で運用され、原子炉SNAP-10Aからの電力を供給する実験衛星でした。RORSATと比較して、SNAP-10Aはより高い軌道に投入され、事故も発生していませんでしたが、これもまた、原子力宇宙開発における挑戦とリスクを示す一例と言えます。

まとめ

RORSATは、海洋偵察という軍事的な目的と、原子力技術という高度な技術開発の両面を備えたソビエト連邦の野心的な宇宙開発プロジェクトでした。しかし、その運用には数々の事故や問題が伴い、宇宙空間における放射性物質の危険性や、宇宙デブリ問題の深刻さを改めて認識させる事例となりました。RORSATの事例は、現代においても宇宙開発における安全性の確保と環境問題への配慮の重要性を示す、重要な教訓となっています。

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