S盤アワー

「S盤アワー」とは

文化放送（当時の日本文化放送協会）で、1952年4月2日から1969年10月1日にかけて放送された、日本ビクター提供の長寿ラジオ音楽番組です。特に、当時の最新の洋楽レコードを紹介する番組として、多くの音楽ファンに支持されました。

「S盤」が意味するもの

番組名にある「S盤」とは、提供元である日本ビクター（現在のJVCケンウッド）の音楽レコード事業部門（現在のビクターエンタテインメント〈二代目法人〉）が、主に洋楽向けに展開していたSP盤レコードのレーベルの略称です。つまり、「S盤アワー」は、このレーベルから発売される洋楽の新譜をいち早くリスナーに届けることを目的としていました。

番組の構成と変遷

番組は、ペレス・プラード楽団の情熱的な「エル・マンボ」をオープニング曲として始まり、冒頭には「犬のマークでおなじみの日本ビクターがお送りする、ニュースタイルの軽音楽プロ、"S盤アワー"の時間がやってまいりました」という提供アナウンスを兼ねたおなじみの挨拶がありました。エンディングは、ラルフ・フラナガン楽団の「唄う風」で締めくくられました。

放送開始当初は15分番組としてスタートしましたが、わずか数ヶ月の間にリスナーの関心が高まったことを受け、同年7月には20分に、さらに同年11月には30分番組へと拡大されました。これにより、より多くの楽曲を紹介し、音楽情報を提供する時間を確保できるようになりました。

収録へのこだわり

番組の収録は、文化放送の四谷にあった旧社屋ではなく、提供元の日本ビクターのスタジオで行われていました。放送開始当初は東京・築地にあったビクタースタジオが使用され、番組終了間際の1969年7月からは、完成したばかりのビクター青山スタジオに移って最終回を迎えました。特筆すべきは、番組で使用された音源に対するこだわりです。市販されているレコード盤ではなく、アメリカのRCAから飛行機で空輸されたカッティング用のマスターテープが使用されていました。これは、レコード盤特有のノイズを排除し、よりクリアで生演奏に近い雰囲気のサウンドをリスナーに届けるための試みでした。

番組を彩ったDJと制作陣

番組の顔として、日本ビクターの社員であった帆足まり子氏（後に退社しフリーとなる）がディスクジョッキーを務めました。彼女の選曲と紹介によって、当時の日本のリスナーは世界の最新ヒット曲に触れることができました。

番組のプロデューサーは、小藤武門氏（中原ひろと名義でも活動）でした。

企画とDJ選考の秘話

「S盤アワー」の企画は、プロデューサーの小藤武門氏によって生み出されました。彼はまずラジオ東京（現在のTBSラジオ）に番組企画を持ち込みましたが、残念ながら採用には至りませんでした。そこで次に文化放送に打診したところ、企画が通り番組開始へと繋がりました。

ディスクジョッキーの選考には、興味深いエピソードがあります。番組立ち上げの際、ビクター社内からは、当時ビクター専属歌手としてデビューしたばかりの宮城まり子氏をDJに推薦する声が上がりました。宮城氏本人も意欲的でしたが、「歌手活動とDJの両立は難しいのではないか」「歌手がDJを務めるのは適切か」といった社内からの懸念や慎重論が出たため、見送られることになりました。代わりに小藤プロデューサーが推薦したのが、当時入社3年目のビクター社員で、偶然にも名前に「まり子」が入っていた帆足まり子氏でした。小藤氏は、帆足氏が担当したビクター製品の宣伝コマーシャルのナレーションを聞いてその声に惚れ込み、「これだ！」と確信して彼女をDJに起用することを決定したと言われています。帆足氏の的確な紹介と親しみやすい語り口は、番組の人気を確立する上で重要な要素となりました。

「S盤アワー」は、約17年半にわたり放送され、多くのリスナーに海外の音楽文化を紹介する役割を果たした、日本のラジオ史において重要な位置を占める番組の一つと言えるでしょう。

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