SFファンシーフリー

手塚治虫のSF短編集『SFファンシーフリー』：多様な宇宙と人間のドラマ

手塚治虫によるSF漫画作品集『SFファンシーフリー』（SF and Fancy Free）は、1963年2月号から1964年2月号まで、早川書房の『S-Fマガジン』にて連載されました。全9編からなるオムニバス形式の作品で、各作品は独立したストーリーとなっており、互いに関連性はありません。

興味深いのは、その作品形式の多様性です。全9編のうち5編は、漫画ではなく、絵物語という形式で描かれています。これは手塚治虫作品の中でも珍しい試みと言えるでしょう。また、各作品の長さも様々で、短い作品は5ページ程度なのに対し、『ガリバー旅行記』は10ページ、『緑の果て』に至っては15ページと、比較的長編の作品も含まれています。特に『緑の果て』は後にリメイクされるなど、高い人気を誇る作品の一つとなっています。

タイトル『SFファンシーフリー』は、1947年に制作され、1954年に日本公開されたディズニー映画『ファン・アンド・ファンシーフリー』に由来しています。両作品ともオムニバス形式の作品であるという共通点がありますが、内容的には全く無関係です。このタイトルの引用は、手塚治虫作品においてしばしば見られる手法で、『メトロポリス』や『ロストワールド』、『時計仕掛けのりんご』など、他の作品でも同様の例を見ることができます。

収録されている9つの物語は、それぞれ異なるテーマと魅力を持っています。例えば「炎症」では、増殖するコロッケが人類滅亡の危機をもたらすという奇想天外な物語が展開されます。「うしろの正面」では、映画撮影隊が異星で遭難するサバイバルストーリーが描かれ、「そこに指が」では、人々を襲う不可解な恐怖と、その背後に潜む謎が描かれています。「一寸の虫」は、宇宙から来た幽霊と地球の幽霊との交流を描いたユーモラスな作品です。「24時間まえの男」では、未来が見えるようになった男の葛藤が描かれ、「ゼンソクの男」は、タイムマシンを使って先祖の病気を治そうとする家族の物語です。「緑の果て」は、滅亡した地球から脱出した人類が、奇妙な植物と遭遇する物語であり、「七日目」は、科学者と彼の作ったロボットの物語を演劇形式で描いた作品です。そして、「ガリバー旅行記」は、小惑星で巨大化した男の物語という、ユニークな解釈を加えた作品です。

これらの作品は、連載時の掲載順と、後年の『手塚治虫漫画全集』での掲載順が異なっているため注意が必要です。

『SFファンシーフリー』は、単なるSF作品集というだけでなく、手塚治虫の多様な才能と、ユーモアとシリアスさを巧みに織り交ぜた表現力、そして独特の世界観を堪能できる作品です。収録作品それぞれに個性があり、読後感も様々であるため、様々なSF作品に触れたいという方にも、手塚治虫作品を初めて読むという方にもおすすめできる作品と言えるでしょう。さらに、単行本には『SFファンシーフリー』シリーズ以外にも、いくつかの作品が収録されており、手塚治虫の世界観をより深く知ることができるでしょう。また、『'60年代日本SFベスト集成』など他のアンソロジー作品にも収録されているため、広く読まれている作品であることがわかります。

南山宏氏は、このシリーズが掲載された当時の『S-Fマガジン』の副編集長でした。彼の尽力も、この作品集の誕生に大きく貢献したと言えるでしょう。

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