SOS遭難事件

SOS遭難事件

「SOS遭難事件」は、1989年夏に北海道の大雪山系旭岳で発生した、多くの謎を残す山岳遭難事件です。登山道から外れた深い山中で、倒木を組み上げて作られた巨大な「SOS」の文字が発見され、その近くから人骨や遺留品が見つかったことで知られます。

発見と捜索の経緯

事件が明るみに出たのは1989年7月24日。大雪山系で別の行方不明者を捜索していた北海道警察のヘリコプターが、旭岳南方の忠別川源流部付近で、地上に描かれた巨大なSOSのサインを発見しました。当初、このサインは捜索対象者が作ったものと思われましたが、無事保護された彼らは無関係と証言。警察は新たな遭難者がいると判断し、翌25日に改めて周辺を捜索。SOSサインの近くから、動物に噛まれた痕のある人骨片と、カセットテープ、テープレコーダー、リュックサック、お守りなどの遺留品を見つけました。

発見された人骨は、当初、20代から40代の女性のものと鑑定されました。遺留品の調査では、テープレコーダー内のカセットテープから、ラジオ放送に続き、約2分17秒間にわたり、一語ずつ途切れ途切れに「SOS」と叫ぶ若い男性の声が録音されているのが発見されました。他のテープには、アニメ『超時空要塞マクロス』や『魔法のプリンセス ミンキーモモ|魔法のプリンセス_ミンキーモモ』の主題歌、ラジオ番組などが録音され、テープケースにはミンキーモモの切り抜きが貼られていました。

また、SOSの木文字は1987年9月に撮影された航空写真にも写っていたことが確認され、事件の少なくとも2年以上前にはすでに存在していたことが判明しました。

身元の特定と真相

7月28日の追加捜索では、頭蓋骨を含むさらなる人骨や、三脚、男性用バスケットシューズなどが見つかりました。遺留品の情報から、1984年7月に旭岳で行方不明となった愛知県の男性会社員が特定されました。彼の知人証言（カメラ携帯、アニメ主題歌の録音など）や、バスケットシューズのサイズ、お守りの神社の所在地といった遺留品情報がこの男性と一致したためです。

しかし、当初人骨が女性と鑑定されたことから、男女2名での遭難という可能性も一時的に考えられました。ところが、該当する女性の行方不明記録がなく、女性の遺留品も見つからないこと、男性は一人で入山していたことが判明し、捜査や報道に混乱が生じました。最終的に、1990年2月28日、警察は発見された人骨はすべて遺留品から特定された男性のものであったと正式に発表。遭難者は男性単独であったことが確定し、初期鑑定の誤りが明らかになりました。

事件の背景と考察

この事件にはいくつかの謎が残ります。

遭難原因と地形: 遭難現場周辺は、「金庫岩」と紛らわしい「ニセ金庫岩」による道迷いを起こしやすく、一度迷い込むと脱出が極めて困難な地形です。上部は密生した笹で下りやすいものの、下からは登りづらく、下方には崖があります。後に取材者も遭難しかけ、地形の危険性が裏付けられました。
SOS木文字: 巨大なSOS文字の作成には、丸二日程度の時間と多大な体力を要したと推測されます。文字を作成できる体力が残っていたにもかかわらず、自力脱出に至らなかった点は疑問とされました。無闇に動かず救助を待つ判断か、地形的な脱出不能性が推測されています。漫画『鉄腕アトム』に類似シーンがある点も話題となりました。
* SOS録音: 衰弱前に声を記録したか、偶然録音されたかなど諸説ありますが、理由は不明です。

類似事例

SOSサインが救助につながった例として、2012年にロシアで遭難した3人が、木材でSOS文字を作り航空機に発見され救助された事例があります。

SOS遭難事件は、過酷な状況下での行動と、残されたメッセージが多くの疑問を残した稀有な遭難事例です。

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