SOSUS

音響監視システム（SOSUS）とは

音響監視システム（Sound Surveillance System, SOSUS、ソーサス）は、アメリカ海軍が運用していた海洋監視システムであり、海底に設置されたパッシブ・ソナー（水中固定聴音機）を用いていました。

SOSUSの起源と発展

SOFAR（ソーファー）システムの開発

1940年代、アメリカ海軍は海洋における音波伝搬の研究に着手しました。その過程で、モーリス・ユーイング博士らが深海サウンドチャネル（SOFAR channel）を発見しました。深海サウンドチャネルとは、海中における音速が最小となる層のことで、この層を伝わる音は減衰しにくく、長距離伝搬に適しています。

この特性を利用したのが、SOFAR（Sound Fixing and Ranging）システムです。当初は、洋上で墜落した飛行士の捜索救難を目的として開発されました。遭難者が投下する爆弾の音をハイドロフォンで捉え、三角測量によって位置を特定する仕組みでした。その後、SOFARシステムは潜水艦の長距離探知に応用されることになります。

LOFAR（ローファー）技術の導入とシーザー計画

冷戦時代に入ると、ソ連海軍がUボートXXI型を参考にした水中高速潜水艦の配備を進めたため、アメリカ海軍は対潜戦能力の強化を急務としました。その一環として、超低周波を利用した長距離探知技術の研究開発が行われました。これがLOFAR（low frequency analysis and recording）と呼ばれる技術です。

ベル研究所が参加したジェジベル計画（Project Jezebel）では、低周波音の分析・記録のためのパラメーターが明らかにされ、リアルタイム・スペクトル分析器が提案されました。そして、1951年にはバハマのエルーセラ島で実験が行われ、LOFARの有効性が確認されました。

この成功を受けて、アメリカ海軍はシーザー計画を開始し、ベル研究所と長距離探知・類別システムの製造・設置契約を締結しました。この契約をもって、システム名はSOSUSと称されるようになりました。

SOSUSの展開と冷戦における役割

当初、SOSUSは主に大西洋に展開され、その後太平洋にも拡張されました。これらのシステムは1960年代までに運用を開始し、ソ連の潜水艦を監視する上で重要な役割を果たしました。

SOSUSは、原子力潜水艦の登場によって重要性を増しました。原子力潜水艦は、レーダーやアクティブ・ソナーでの探知が困難でしたが、原子炉や蒸気タービンから発生するノイズを常に発しており、パッシブ・ソナーによる聴知が有効と考えられたからです。アメリカ海軍は、SOSUSと攻撃型原子力潜水艦、対潜哨戒機を組み合わせた対潜戦システムを構築し、ソ連の潜水艦に対抗しました。

SOSUSは、キューバ危機の際にソ連海軍の潜水艦を探知したり、原子力潜水艦「スレッシャー」や「スコーピオン」の沈没位置を特定したりするなどの実績を上げました。

SOSUSの衰退と新たな展開

しかし、ソ連もSOSUSに対抗するため、静粛性の高い潜水艦の開発を進めました。また、SOSUSアレイを回避する戦術も出現し、SOSUSの効果は徐々に低下していきました。

冷戦終結後、ソ連潜水艦を探知する必要性が低下したため、SOSUSは規模を縮小しました。しかし、現在では、潜水艦探知だけでなく、地震学や海洋哺乳類の回遊、地球温暖化といった海洋学の研究、麻薬密輸阻止といった法執行機関のニーズにも活用されています。

他国の類似システム

ソ連海軍も同様の水中固定捜索局を展開していましたが、財政難から施設が老朽化しました。中国海軍も「水下的強網系統」と呼ばれる同様のシステムを南シナ海などに展開しており、海上自衛隊も水中固定聴音機を設置し、西太平洋のSOSUSと連接されていた可能性が指摘されています。

SOSUSは、冷戦期の遺産でありながら、現代においても様々な分野で活用されているシステムです。その技術と歴史は、海洋監視のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

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