SPARC T3

SPARC T3 マイクロプロセッサ

SPARC T3マイクロプロセッサは、かつてサン・マイクロシステムズ、後にオラクルによって開発・製造された高性能なマルチコア、マルチスレッドCPUです。開発段階では「Rainbow Falls」というコードネームで知られ、UltraSPARC KTやNiagara-3とも呼ばれていました。2010年9月20日に正式に市場投入され、SPARCプロセッサファミリーにおける重要な一員として、先行モデルであるUltraSPARC T2の後継にあたります。

アーキテクチャと特徴

SPARC T3は、高度な並列処理能力を核とした設計が特徴です。最大で16基のCPUコアを搭載し、各コアは最大8つのハードウェアスレッドを同時に実行可能です。これにより、単一のプロセッサで合計128スレッドもの並列実行能力を発揮します。チップは40nmプロセス技術で製造されており、6MBのL2キャッシュを備えています。

メモリシステムにおいては、DDR3 SDRAMをサポートする4つのメモリチャネルが統合されており、高速なデータアクセスを実現します。また、システムオンチップ（SoC）として設計され、組み込みのPCI Express I/Oインターフェースを持ちます。ネットワーク機能として、1ギガビットイーサネットおよび10ギガビットイーサネットインターフェースが2つ内蔵されています。さらに、SMP構成に対応しており、専用の接着回路なしで最大4ソケットシステムを構築できます。

セキュリティ機能も強化されており、各コアに専用のセキュリティコプロセッサが搭載されています。このコプロセッサは、DES、3DES、AES、RC4、SHA-1、SHA-256/384/512、Kasumi、Galois Field、MD5、最大2048ビットのRSA、ECC、CRCなど、多岐にわたる暗号化アルゴリズムに対応しています。ハードウェア乱数ジェネレータも組み込まれており、セキュアなシステム運用を支援します。チップ全体のソケットあたりの総スループットは、最大2.4Tbit/sに達します。

パフォーマンスの向上

SPARC T3は、先行モデルであるUltraSPARC T2+と比較して、顕著な性能向上を実現しました。特に、シングルソケットおよびマルチソケット構成の両方でシステム全体のスループットが大幅に強化されています。T3プロセッサは、T2+がデュアルソケットシステムで達成していたスループットを、シングルソケット構成でも凌駕する能力を持ちます。

SPEC CINT2006レートなどのスループットベンチマークにおいて、シングルソケットのT3-1プラットフォームは、デュアルソケットのT2+プラットフォーム（UltraSPARC T5240など）と比較して改善された結果を示しました。さらに、シミュレートされたウェブサービスのワークロードでは、デュアルソケット構成のSPARC T3システムが、旧世代のクアッドソケットUltraSPARC T2+システムだけでなく、同時期の競合他社製デュアルソケットおよびクアッドソケットシステムをも上回るパフォーマンスを発揮したことがベンチマークで報告されています。

UltraSPARC T2/T2+と比較した場合、T3の性能向上は以下の点で特に顕著です。

コア数が2倍の16となりました。
10ギガビットイーサネットポートが2つに倍増しました。
暗号アクセラレータコア数も2倍の16になりました。
サポートする暗号化アルゴリズムの種類が増加しました。
暗号化パフォーマンスのスループットは1.9倍以上に向上しました。
より高速なDDR3 RAMインターフェースを採用しました（T2/T2+はDDR2）。
総合的なスループットは2倍に増加しました。
サポートされる最大メモリ容量が2倍になりました。
I/Oスループットは4倍に拡張されました（PCIe 2.0 x8インターフェースなど）。

歴史とシステム

SPARC T3の開発情報は、公式発表前からいくつかのIT関連出版物で報じられました。当初、コア数に関する誤った情報が流れたこともありましたが、後にサン・マイクロシステムズ（発表当時はすでにオラクルの一部）はHot Chips 21やISSCC 2010といったカンファレンスで、16コア、128スレッドという正確な情報を公開しました。OpenSolarisのコード変更によりその存在が事前に確認された後、2010年9月20日にサンフランシスコで開催されたOracle OpenWorldにて、「Ultra」の冠を取り除いた「SPARC T3」として正式にローンチされました。この発表では、世界記録に匹敵する性能を謳う新たなシステムと、実際のアプリケーションに基づいたベンチマーク結果が多数公開されました。

SPARC T3チップのリリースと同時に、オラクルは新しいブランド体系であるOracle SPARC Tシリーズサーバを展開しました。これは、UltraSPARC T2/T2+を搭載していたSPARC EnterpriseのCMT製品ラインを刷新するものでした。T3を搭載した初期のサーバ製品ラインアップは以下の4モデルが市場投入されました。

1ソケット SPARC T3-1 （2Uラックサーバ）
1ソケット SPARC T3-1B （ブレードサーバ）
2ソケット SPARC T3-2 （ラックサーバ）
* 4ソケット SPARC T3-4 （ラックサーバ）

仮想化サポート

UltraSPARC T1、T2、T2+といった先行モデルと同様に、SPARC T3も高度な仮想化機能に対応しています。超特権実行モードをサポートし、Oracle VM Server for SPARC（旧称: 論理ドメイン）機能を利用することで、1台の物理システム上で最大128もの独立した仮想マシン環境（ドメイン）を同時に稼働させることが可能です。これにより、システムリソースの効率的な利用と柔軟な運用が実現されます。

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