SR マーチャント・ネイヴィー形蒸気機関車

サザン鉄道マーチャント・ネイヴィー形蒸気機関車

サザン鉄道マーチャント・ネイヴィー形蒸気機関車（SR Merchant Navy class）は、イギリスのサザン鉄道において使用されていた蒸気機関車です。この機関車は、1941年から1949年にかけて30両が製造され、主にロンドンと南岸地域を結ぶ急行列車の牽引に活躍しました。

概要

この機関車は、オリバー・ブレイドによって設計された急行旅客用のためのものでありながら、戦時中の建造規制を避けるために客貨両用機関車として登録されました。最大荷重610トンを支え、113 km/h（約70 mph）の速度を出せる性能を持つ設計となっています。流線型のボディデザインにより、外観は「スパム缶」というユニークな愛称で親しまれました。

開発経緯

サザン鉄道は、他の鉄道会社に比べて電化に注力したことから、蒸気機関車の開発では遅れを取っていました。そのため、輸送量の増加に対応するため、新型機の開発が不可欠となりました。1938年にバリードが新しい技師長に就任し、従来の機関車に代わる新しい車両の設計を始めました。

当初、バリードは4-8-2や2-8-2の車軸配置を考えていましたが、最終的には4-6-2のパシフィック機を選択しました。この設計は、より多くの貨物を牽引できるだけでなく、急行列車向けとしても優れたパフォーマンスを発揮しました。

その後、第二次世界大戦による影響を受け、貨客両用の名目で開発が進められました。ただし、設計段階から名称に関する混乱があり、「チャネルパケット」という愛称で知られるようになりました。1941年に公開された21C1“ Channel Packet”は、当時大きな注目を集めました。

構造的特徴

この機関車は、従来のイギリスの蒸気機関車とは異なる多彩な機構を持っています。特に注目すべきは、バリードが考案した独自のチェーン駆動式弁装置です。動輪の内側に配置され、三つの汽筒の排気を効率的に制御します。また、「Air-smoothed Casing」と呼ばれる流線型のカバーが装備され、空気抵抗を軽減する役割を担っています。さらに、火室は溶接工法で製造されており、重量の軽減と製造コストの削減を実現しています。

運用と課題

この機関車はロンドンからサウサンプトン、エクセターを結ぶ急行列車に使用されましたが、戦争による燃料の質の低下にも関わらず、高い出力を維持することができました。その一方で、弁装置の磨耗や保守の難しさなどの問題が浮上し、整備士にとって扱いづらい機関車でもありました。また、蒸気の排出に関する視界の問題や火災のリスクも存在し、これによる事故が多発しました。

戦後、イギリス国鉄による運用が始まり、30両全ての機関車で独自の問題が再評価され、設計の見直しが進められました。特に弁装置とカバーの多くが撤去され、標準的な機構に置き換えられました。その結果、信頼性向上が図られましたが、バリードの設計思想は薄れ、新しい機関車に取って代わられていきました。

保存状況

マーチャント・ネイヴィー形は、現在もいくつかの車両が保存されています。機関車35005（21C5）「カナダ太平洋」は、復元作業が行われ、近い将来、動力源として蒸気を発生させることが目指されています。また、35006（21C6）「Peninsular＆Oriental SN Co.」は、既に運行されており、他の車両も修復待ちの状態です。こうして、サザン鉄道マーチャント・ネイヴィー形は、その歴史と技術を今に伝え続けています。

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