ST-506

ST-506：パーソナルコンピュータ黎明期のハードディスク規格

ST-506は、シーゲイト・テクノロジーが1980年に開発した、パーソナルコンピュータ向けのハードディスクドライブ規格です。現在では、ハードディスクドライブそのものというよりは、そのインタフェースと制御方式を指すことが多い用語となっています。この規格は、初期のPCハードディスク技術において重要な役割を果たし、後の規格の発展にも大きく影響を与えました。

ハードディスクドライブとしてのST-506

ST-506は、5.25インチフルハイトという、当時の標準的なサイズで設計されました。初期モデルは、フォーマット後の容量が5Mバイトでした。後に、プラッタを2枚にした10Mバイトモデル（ST412）も登場しました。記録方式には、当初はフロッピーディスクで用いられていたMFM変調が採用されていましたが、後にRLL方式に移行することで、容量と転送速度を約50%向上させることに成功しました。これらのドライブは、当時のPCにとって、大容量の記憶媒体として重要な存在でした。

インタフェースとしてのST-506

ST-506は、インタフェース規格としても広く知られています。S-100バスコントローラカードを使用することで、最大4台のドライブを接続することができました。各ドライブは、34ピン制御線と20ピンデータ線の2本のケーブルで接続されていました。制御信号とデータ信号は5MHzで動作し、最大625KB/秒のデータ転送速度を実現しました。

ST-506の特徴として、コントローラがヘッドのシーク制御やデータの読み書きをすべて行っていた点が挙げられます。これは、現在のインテリジェントなドライブとは対照的で、非常に原始的な方法と言えるでしょう。34ピンの制御線を通じてヘッドを位置決めし、20ピンのデータ線（実際には書き込み用と読み込み用に1本ずつ使用）を通じてデータの送受信が行われました。

発売当初は問題ありませんでしたが、後にデータ転送速度の不足が課題となり、より高速なESDI規格が登場しました。それでも、ST-506は多くのHDDメーカーに採用され、1980年代を通じて広く普及しました。IBM PC（1981年発売）にも搭載されたことは有名です。しかし、その原始的で複雑な制御方式は、SASI、SCSI、IDEといったより高度で抽象化された規格の開発を促すことにもなりました。

部品としてのST-506

初期のSCSI、IDE、SASIハードディスクドライブの多くは、ST-506形式のハードディスクドライブにインターフェース変換基板を搭載した構成でした。これは、シングルチップのSCSIやATAコントローラが普及した1990年代初期まで続きました。例えば、PC-9800シリーズで使用されていた純正SASIハードディスクも、この構造を採用していました。外付けハードディスクユニット内にSASI-ST-506変換ボードを搭載することで、ST-506ドライブを利用していたのです。増設用のHDDが別途ラインナップされていたのは、1台目はST-506準拠の信号線を使用するのに対し、2台目以降は変換ボードが実装されていなかったためです。

まとめ

ST-506は、ハードディスクドライブ単体としての側面だけでなく、インタフェース規格、そして後の規格開発に影響を与えた重要な部品としての側面も持っています。この規格を知ることは、初期のPCハードディスク技術の歴史を理解する上で不可欠です。ST-506は、現代の高度なストレージ技術の礎を築いた、重要な技術的マイルストーンと言えるでしょう。

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