SWAN彗星 (C/2002 O6)

スワン彗星（C/2002 O6）

スワン彗星（Comet SWAN、整理番号C/2002 O6）は、2002年に発見された周期彗星ではない彗星（非周期彗星）です。この彗星の発見には、太陽観測衛星SOHOが重要な役割を果たしました。

発見の経緯

スワン彗星は、日本の天文愛好家である鈴木雅之氏によって発見されました。発見は2002年7月31日（日本標準時）のことです。鈴木氏は、当時太陽観測衛星SOHOに搭載されていた「SWANカメラ（太陽風観測カメラ）」が撮影した同年7月25日と27日（世界時）の画像を詳細に解析する中で、画面上に微かな移動天体が存在することを見出しました。発見に先立つ他の日付の画像にもその姿が記録されていたため、彼はその天体を9等級の新しい彗星として、国際機関である天文電報中央局に報告しました。

SWANカメラは太陽風や宇宙空間の水素原子分布を広範囲に観測することを目的としており、一般的な天体望遠鏡に比べて画像の解像度は高くありませんでした。このため、鈴木氏が報告した移動天体の正確な位置特定と地上からの確認観測は容易ではなかったとされます。しかし、アメリカ・ニューメキシコ州で活動していた彗星観測家のアラン・ヘール氏が、報告に基づいて探索を行った結果、9.5等級の明るさでこの彗星の存在を目視によって確認することに成功しました。これにより、鈴木氏の発見が裏付けられました。

発見の特異性とエピソード

SOHO衛星のSWANカメラ画像から彗星が発見された例は、スワン彗星以前にもC/1997 K5とC/2000 S5の二つがありました。しかし、これらはいずれも数年前に撮影された過去のアーカイブ画像を解析する中で見出されたものでした。スワン彗星のように、撮影されて間もない、いわばリアルタイムのSWAN画像から発見され、かつ地上からの確認観測が行われたのは、この時が初めてのケースでした。

鈴木氏は以前にC/2000 S5が過去画像から発見されたことを知り、SWAN画像の特性を理解した上で、天体の位置を独自に算出するためのソフトウェアを自作していました。そのソフトウェアを使って、当時観測されていたヘーニッヒ彗星 (C/2002 O4) の位置を確認する作業を行っていた際に、偶然この新しい彗星に気づいたと言われています。

当時、太陽のすぐ近くを観測するSOHOのLASCOという別の観測装置からは、すでに500個近い彗星が発見されていました。しかし、SWANカメラが捉える全天に近い広範囲の画像から発見された彗星が、地上で確認された前例がなかったのです。この状況から、発見報告から公式に彗星の名称が決定されるまでには、2週間以上の時間を要しました。そして、発見者の名前が彗星名に冠される慣例に対し、この彗星は発見に用いられた機器の名を冠した「SWAN」が付けられた初めての例となりました。スワン彗星の発見は、LASCO画像だけでなくSWAN画像も彗星探索の有効な手段であることを示し、この出来事を機に、世界中の「コメットハンター」たちがSWAN画像の解析にも積極的に取り組むようになるきっかけとなりました。

出現時の様子

スワン彗星は、発見前の2002年7月半ば頃（世界時16日、18日、20日）のSWAN画像にもその姿が記録されていました。地上からの観測は、前述の通り8月1日（世界時）にエリダヌス座の領域で確認されてから本格的に始まりました。8月中旬には、東の空低い位置で尾を伴った姿が観測されるようになり、その明るさは肉眼でも捉えられる5～6等級まで増光しました。その後、彗星は夜空を移動し、オリオン座、ふたご座、やまねこ座といった星座の方向へ進んでいく様子が多くの観測者によって捉えられました。

スワン彗星が太陽に最も接近する近日点通過は、2002年9月9日でした。しかし、8月下旬を迎える頃には、彗星の核が分裂したり、物質が広がって見えたりする「拡散」が始まり、それに伴って明るさも急速に失われていきました。このため、彗星の正確な位置を測定する観測は8月31日までで終了し、彗星自体の観測も9月下旬を最後に途絶えてしまいました。比較的短期間の出現でしたが、その発見経緯と、リアルタイム観測の重要性を示すエピソードとして、彗星観測史において記憶される存在となりました。

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