SWAN彗星 (C/2020 F8)

SWAN彗星 (C/2020 F8)

「SWAN彗星」という名称は、太陽観測衛星SOHOに搭載されているSWAN観測装置によって発見された彗星に複数与えられていますが、本記事では特に符号「C/2020 F8」で識別される非周期彗星について解説します。この彗星は、2020年に発見され、一度太陽系内部に接近すると再び遠ざかり、二度と地球の近くに戻ってこない軌道を持つと考えられています。

発見とその経緯

C/2020 F8の存在は、太陽観測衛星SOHOに搭載されたSWAN（Solar Wind Anisotropies）装置が捉えた観測データを分析する過程で明らかになりました。SWANは、太陽風と彗星から放出された水蒸気が相互作用して生じる水素原子からの紫外線を広範囲にわたって観測する能力を持っています。このSWAN装置によって得られたデータの中から、C/2020 F8は2020年3月25日に発見されました。

軌道の特性

彗星の軌道は発見後の観測によって徐々に精度が向上します。発見当初の2020年4月12日に小惑星センターが発行した小惑星電子回報（MPEC）では、C/2020 F8は離心率0.9999952という、太陽を焦点の一つとする非常に細長い楕円軌道を描いていると報告されました。しかし、その後の追加観測に基づく精密な軌道計算の結果、C/2020 F8の軌道は現在、離心率が1.0を超える1.011の双曲線軌道であるとされています。この双曲線軌道という特性は、彗星が太陽系の重力に束縛されないことを意味し、一度太陽の近くを通過すると、そのまま太陽系の外部へと向かい、二度と周期的に回帰しない非周期彗星であることを示しています。

彗星の特徴と振る舞い

C/2020 F8は、これまでの観測から、おそらく太陽系内部領域への接近が初めてであると推測されています。このような彗星は、「新来彗星」とも呼ばれ、長期間にわたって太陽から遠く離れた低温の領域にあったため、核の内部に多くの揮発性物質（水やその他のガスなど）が閉じ込められています。太陽に接近して温度が上昇すると、これらの物質が急速に蒸発し、核の活動が活発化します。これにより、彗星のコマや尾が発達し、明るさが増します。特に、内部のガスや塵が一気に放出される「バースト現象」（急激な増光）を引き起こす可能性が指摘され、その動向が注目されました。

近日点通過と明るさの予測

C/2020 F8は、2020年5月27日に太陽に最も近づく「近日点」を通過すると予測されていました。近日点での太陽からの距離は約0.43天文単位（au）で、これは地球と太陽の平均距離の約43%にあたり、キロメートルに換算すると約6430万キロメートルになります。太陽にこれだけ近づくことから、彗星の明るさが増すことが期待されました。小惑星センターの予測では、2020年5月12日には視等級が4.4等級に達すると見込まれており、これは条件が良ければ肉眼でも確認できる明るさです。さらに、近日点通過前後の2020年5月下旬から6月にかけては、さらに増光して3等級から4等級程度になり、観測に適した明るさになると予測され、多くの天文愛好家がその姿を捉えようと観測を試みました。

まとめ

C/2020 F8は、SOHO衛星のSWAN装置というユニークな手段で発見された非周期彗星であり、その特異な軌道や太陽接近時の活発な活動の可能性から、天文学的な関心を集めました。2020年の近日点通過時には、予測された増光によって、多くの人々に観測の機会を提供しました。一度きりの訪問者として太陽系を通過したC/2020 F8は、彗星研究における貴重な観測対象となりました。

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