Santa Fe

Santa Fe（サンタフェ）

1991年11月13日、朝日出版社から世に送り出された写真集『Santa Fe』は、当時人気絶頂だった宮沢りえを被写体とし、写真家・篠山紀信が撮影を手がけました。発売時点で宮沢りえは18歳を迎えており、この作品は日本社会に大きな衝撃を与えることになります。

発売直後から驚異的な売上を記録し、最終的には155万部を突破（2003年6月時点の集計では165万部）。これは写真集としては世界最高、また日本の芸能人写真集としても未だ破られていない金字塔として、出版史にその名を刻みました。

社会現象と表現のパイオニア

この写真集が発売された1990年代初頭は、日本ではまだ女性のヘアヌードに対する社会的な容認が進み始めたばかりの時期でした。『Santa Fe』は、発売の一ヶ月前に全国紙にヌード写真を含む大規模な広告を掲載したことで、発売前から世間の大きな関心を集め、一種の社会現象を巻き起こしました。

写真集は、同じく篠山紀信が撮影した樋口可南子の『Water Fruit 不測の事態』に続く作品として、女性芸能人によるヘアヌード写真集の流れを決定づけるパイオニア的存在となり、「ヘアヌード解禁」への道筋を作った作品と言われています。ただし、初期のヘアヌード写真集であるため、現在の基準と比べると性毛が写っているカットはわずか2点にとどまり、全身のショットや性毛のアップなどは含まれていませんでした。

撮影地とその背景

作品のタイトルにもなっている『Santa Fe』は、アメリカ合衆国ニューメキシコ州の古都サンタフェ市で撮影されました。サンタフェは芸術の町として知られ、画家ジョージア・オキーフや写真家アルフレッド・スティーグリッツといった著名な芸術家たちが創作活動を行った「聖地」とも呼ばれています。篠山紀信は、初めてヌードを披露する宮沢りえという「聖女」を撮るにあたり、このような特別な場所を選んだと語っています。

撮影時期については、出版社は1991年5月としていますが、宮沢りえの誕生日から計算すると撮影時には17歳10ヶ月であったという説もあり、作品の撮影時の年齢が後に議論の対象となる火種となりました。篠山紀信は他のモデルでも18歳未満の被写体を撮った例があり、この年齢に関する議論は『Santa Fe』に限ったものではありません。

撮影に至った経緯もユニークです。篠山が宮沢りえの母親に社交辞令で「りえちゃんも18歳になったし、ヌードでも撮ったら？」と持ちかけたところ、母親がその場で承諾し、本人抜きで話が進んで写真集の刊行が決定したといいます。

国会での議論と社会への波紋

『Santa Fe』は発売から長い時を経て、2009年6月、衆議院法務委員会における児童ポルノ禁止法の改正案審議の場で再び注目を集めました。当時の法案は18歳未満を被写体としたポルノの単純所持を禁じることを焦点の一つとしており、民主党（当時）の枝野幸男議員が、発売当時適法であった本写真集が法改正によって児童ポルノとみなされ、単純所持が違法となるのかどうかを問いました。

これに対し、法案提出者である自民党（当時）の葉梨康弘議員は、同法により単純所持が違法化される可能性を示唆する発言を行い、これが新聞やインターネット上で大きな波紋を呼びました。この発言は後に葉梨議員自身によって誤解に基づくと釈明されましたが、芸術作品や過去の出版物が安易に児童ポルノの定義に該当することへの懸念が示されました。

国会でのこのやり取りは、皮肉にも写真集に再び光を当てる結果となりました。インターネットオークションでは『Santa Fe』の価格が一時的に急騰し、定価の数倍で取引される事例も報告されています。

その他の話題

『Santa Fe』は、発売後の様々な出来事でも話題となりました。1992年には写真集の表紙に使われた扉が東京都の遊園地「としまえん」で展示されています。また、1999年には「NEW EDITION」として再編集版が出版されました。さらに、2015年には宮沢りえが出演するテレビ番組に篠山紀信がゲスト出演した際、『Santa Fe』には未収録だった秘蔵写真が公開されています。電気グルーヴの楽曲『モノノケダンス』のプロモーションビデオにも、この写真集の表紙のドアと女性のイラストが引用されています。

記録的な売上と社会的な影響力、そしてその後の表現論や法的な議論にまで関わることになった『Santa Fe』は、日本の写真集史、ひいては社会史においても特異な位置を占める作品と言えるでしょう。

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