TRACE

TRACE（遷移領域・コロナ探査衛星）は、アメリカ航空宇宙局（NASA）が運用する太陽観測衛星です。このミッションの主な目的は、太陽の光球、遷移層、そしてコロナという異なる層を詳細に観測することによって、太陽の微小磁場がどのように相互作用し、それに関連するプラズマ構造がどのように形成・変化していくのかを解明することにあります。

TRACEはNASAのSMEX（Small Explorer program）計画の一環として開発されました。SMEXは、宇宙科学研究における比較的低コストかつ迅速なミッションを推進するためのプログラムです。TRACEは、その中でも特に太陽のダイナミクスを理解するための重要な役割を担っています。

1998年4月2日、TRACEはヴァンデンバーグ空軍基地からペガサス・ロケットによって打ち上げられました。ペガサス・ロケットは、航空機から発射されるタイプのロケットであり、その柔軟性とコスト効率の良さから、小型衛星の打ち上げによく用いられます。

TRACEは、常に太陽を観測し続けるために太陽同期軌道を採用しています。太陽同期軌道とは、衛星が地球を周回する際に、太陽に対して常に一定の角度を保つように設計された軌道のことです。これにより、衛星は地球の自転に関わらず、常に太陽光を浴び続けることができ、連続的な観測を可能にしています。

TRACEに搭載されている主要な観測機器は、口径30cmの遠紫外線カセグレン式望遠鏡です。この望遠鏡は、太陽のコロナや遷移層から放射される遠紫外線をとらえることができます。特に、コロナループと呼ばれる、太陽磁場に沿って形成される高温プラズマのループ構造の微細構造を観測することに特化しています。コロナループは、太陽活動の根源的な現象であり、太陽フレアやコロナ質量放出（CME）などのエネルギー放出メカニズムを理解する上で非常に重要です。

TRACEの観測データは、太陽のダイナミクスに関する私たちの理解を大きく進歩させました。特に、太陽の磁場とプラズマの相互作用の複雑さを明らかにし、太陽活動の予測や宇宙天気予報の精度向上に貢献しています。また、TRACEの観測結果は、太陽物理学の研究だけでなく、宇宙空間におけるプラズマ物理学の分野においても重要な知見を提供しています。

TRACEの観測データは、世界中の研究者によって分析され、太陽の謎を解き明かすための貴重な情報源となっています。NASAの公式サイトや関連機関のウェブサイトでは、TRACEが取得した画像やデータが公開されており、一般の人々も太陽の美しい姿やダイナミックな活動を垣間見ることができます。

TRACEは、太陽のダイナミクスを理解する上で欠かせないミッションであり、今後もその観測データが太陽物理学の研究に貢献し続けることが期待されます。

参考文献

“TRACE Science Objectives”. 2010年2月11日閲覧。
“TRACE衛星の太陽観測”. はまぎんこども宇宙科学館. 2010年2月11日閲覧。

関連項目

SOHO

外部リンク

Official TRACE website
Images taken by TRACE
Transition Region and Coronal Explorer Mission Profile by NASA's Solar System Exploration

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