TRPチャネル

TRPチャネル（Transient Receptor Potential channel、一過性受容体電位チャネル）は、ショウジョウバエの視覚変異体であるtransient receptor potential (TRP) 遺伝子にコードされるタンパク質と相同性を持つ、非選択的カチオンチャネルの総称です。脊椎動物にも広く分布しており、様々な生理機能において重要な役割を果たしています。

TRPチャネルの構造とファミリー

TRPチャネルは、細胞膜を貫通するタンパク質であり、イオンを選択的に透過させることで、細胞内外のイオン濃度を調節します。TRPチャネル・スーパーファミリーは、相同性に基づいて以下の7つのサブファミリーに分類されます。

TRPC (canonical)：様々な細胞シグナル伝達経路に関与。
TRPV (vanilloid)：温度や痛みの受容に関与。カプサイシン受容体であるTRPV1が代表的。
TRPM (melastatin)：温度受容や細胞の体積調節に関与。
TRPN (nompC)：機械刺激の受容に関与。
TRPA (ankyrin)：痛みや炎症の受容に関与。ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネートによって活性化されるTRPA1が代表的。
TRPML (mucolipin)：リソソーム機能に関与。
TRPP (polycystin)：多嚢胞腎疾患に関与。

TRPチャネルの生理機能

TRPチャネルは、温度、化学物質、機械的な刺激など、多様な刺激を感知するセンサーとして機能します。これらの刺激に応じてチャネルが開閉し、細胞内外のイオンの流れを変化させることで、様々な生理機能に関与します。

温度感覚：TRPVファミリーやTRPMファミリーのチャネルは、それぞれ特定の温度範囲に反応し、温覚や冷覚の受容に重要な役割を果たします。例えば、TRPV1は43℃以上の高温に反応し、熱いという感覚を引き起こします。
痛覚：TRPV1やTRPA1などのチャネルは、炎症や組織損傷によって生じる様々な化学物質によって活性化され、痛みを引き起こします。
触覚：TRPNファミリーのチャネルは、機械的な刺激を感知し、触覚や聴覚に関与します。
味覚：TRPチャネルは、味覚受容細胞に発現しており、味覚の受容にも関与していると考えられています。
その他：TRPチャネルは、血管収縮、免疫応答、細胞増殖など、様々な生理機能に関与しています。

TRPチャネルの研究は、感覚神経科学の分野において重要な進展をもたらしており、慢性疼痛や炎症性疾患などの治療薬開発への応用が期待されています。

関連項目

* ノーベル生理学・医学賞 - 温感と触覚の受容体の発見(2021年)

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