Tu-119 (航空機)

Tu-119: ソビエト連邦の原子力航空機実験機

Tu-119（ロシア語: Ту-119）は、ソビエト連邦の著名な航空機設計機関であるツポレフ設計局によって開発が進められた原子力推進航空機の実験機です。この機体は、Tu-95爆撃機をベースにした設計がなされ、原子力推進による航空機の可能性を探るものでした。最初に開発されたのは、実験段階のTu-95 LAL（ロシア語: Ту-95 ЛАЛ）で、実際の製造には至りませんでした。

背景と開発の経緯

1950年代から60年代にかけて、世界各国で原子力の利用に向けた研究が行われていました。ソビエト連邦でも原子力推進航空機の研究が進められ、原子炉による長期間の安定した飛行が可能であることから、特に長距離戦略爆撃機としての利用が期待されました。これにより、ソビエト連邦は離陸後、地球上の広範囲にわたる攻撃能力を持つ戦略兵器を実現しようと考えました。

1955年8月に計画が公式に発表され、ツポレフ設計局が試作機の担当として任命されました。Tu-119は、Tu-95に搭載されている4基のターボプロップエンジンに加え、原子炉を利用した熱核ジェットエンジンであるクズネツォフ NK-14を搭載する複合動力機として計画されました。これにより、外気を加熱することで得られる高温高圧の噴流を用いて、高い推進力を生み出すことが可能とされました。

実験機Tu-95 LALの成功

Tu-119の開発に先立ち、既存のTu-95の機体に原子炉を搭載した実験機、Tu-95 LALが製作されました。1958年には、小型の原子炉VVRL-100が完成し、その後地上での稼働実験に成功しました。この原子炉を搭載したTu-95 LALは、1961年5月に初飛行し、空中での原子炉稼働に成功しました。この期間中に行われた34回の飛行の中には、48時間の連続飛行を達成したものもあったとされています。

この機体には、放射線防護シールドが施され、乗員が放射線から守られていることが確認されました。ただし、実験に参加した乗員の大部分が、数年内に健康を害し、1990年代には生存者がわずか3名に留まったという事実は、放射線防護の信頼性に疑問を投げかけるものでした。

Tu-119の計画中止

Tu-95 LALの成功を受け、ツポレフ設計局はTu-119の製造に取り掛かる計画を進めましたが、1970年代初頭には計画の縮小が決定されました。これには高コストや、墜落事故による放射性物質の汚染リスク、さらには大陸間弾道ミサイルの実用化による原子力航空機の必要性の低下が影響しました。最終的には、1966年8月にTu-119の開発計画は中止され、実機の製作は行われないまま終息を迎えました。

まとめ

Tu-119は、当時の技術と戦略の交差点に位置する原子力推進航空機の実験機として、その存在は特異なものでした。これは冷戦期における航空機技術の進化を示す重要な研究プロジェクトであり、ソビエト連邦の航空技術の進展を象徴しています。アメリカ合衆国も同様に原子力推進航空機の開発を試みましたが、いずれも実用化の道には至りませんでした。

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