Turbo Basic

Turbo Basic（ターボベーシック）

Turbo Basicは、パーソナルコンピューター向けのプログラミング言語であるBASICの処理系の一つで、特にコンパイラ形式を採用していたことで知られます。元々はロバート・ボブ・ゼール氏によって開発され、著名なソフトウェア会社であるボーランド社から製品として発表されました。

その登場は1985年です。この時期、パーソナルコンピューター、特にMS-DOSを搭載したIBM PC/AT互換機などが普及し始めており、プログラミングへの関心も高まっていました。当時のボーランド社は、既にTurbo Pascalで大きな成功を収めており、Turbo CやTurbo Prologといった他の言語製品も精力的に展開していました。Turbo Basicは、これらのボーランド社製プログラミング言語製品、例えばTurbo Pascal 4.0やTurbo C 1.0/1.5、Turbo Prolog 1.1などと共通する特徴的な黒い画面のユーザーインターフェースを備えていました。ボーランド製品の画面色が、後に広く知られるようになる青基調に変化したのは、1989年頃に登場したTurbo C 2.0やTurbo C++ 1.1の頃からであり、Turbo BasicやTurbo Prologはその時期には既にボーランドからの販売を終えていました。

当時のパーソナルコンピューター向けBASIC処理系の主流は、プログラムの実行時に一行ずつ機械語に翻訳しながら実行するインタプリタ形式であったり、プログラムの実行に別途ランタイムライブラリと呼ばれる支援プログラムが必要なものでした。これに対し、Turbo Basicは本格的なコンパイラとして機能し、MS-DOS上で直接実行可能な高速なネイティブコードを生成することが最大の特徴でした。ネイティブコードを生成するということは、実行速度が非常に速くなることを意味し、複雑な処理やグラフィック表示など、従来のインタプリタBASICでは難しかったプログラミングが可能になりました。これにより生成された実行ファイル（EXE）は、Turbo Basic製品本体はもちろん、特別なランタイムライブラリをインストールすることなく、単独で動作させることが可能でした。これは、開発したプログラムを他のコンピューターで配布・実行する際に非常に便利な機能でした。

また、Turbo Basicは統合開発環境（IDE）を提供していました。これは、プログラムの編集を行うエディタ、コンパイラ、そして実行中のプログラムに一時停止をかけたり変数の値を調べたりできるデバッガが一体となった環境です。当時の多くのBASIC処理系は、エディタと実行環境が分かれていたり、デバッグ機能が限定的であったりしたため、統合開発環境内でプログラムの編集からコンパイル、実行、デバッグまで一貫して行えるTurbo Basicは、開発効率を大幅に向上させる優れた開発環境を提供したと言えます。

文法面においても、Turbo Basicは従来のBASICに見られた行番号を用いた記述ではなく、ALGOLライクな構造化を重視したスタイルを採用していました。豊富な制御構造（if-then-elseによる条件分岐、while-wendやfor-nextによる繰り返し処理など）や、引数を持つサブルーチン機能など、構造化プログラミングに適した要素を多く備えていました。これにより、大規模で複雑なプログラムでも、より整理された分かりやすいコードを記述することが可能になりました。

Turbo Basicのような先進的な実装の登場は、それまで初心者向けのインタプリタ言語というイメージが強かったBASICを、より本格的な構造化プログラミングが可能な言語へと進化させる契機の一つとなりました。その後のBASIC言語の発展に大きな影響を与えたと言えます。

ボーランド社がTurbo Basicの販売終了を決定した際には、開発者であるゼール氏が権利を引き継ぎました。そして、名称をPowerBASICと改め、自身の設立した同名企業によってその後のサポートおよび開発が行われることとなりました。Turbo Basicは短命に終わったボーランド製品の一つではありますが、その革新的な技術と設計は、PowerBASICへと受け継がれ、BASIC言語の可能性を広げる重要な一歩となったのです。

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