Us (ピーター・ガブリエルのアルバム)

『Us』は、イギリスを代表するアーティスト、ピーター・ガブリエルによって1992年に発表された通算6作目にあたるオリジナル・スタジオ・アルバムです。前作であり世界的に大ヒットを記録した『So』から数えて、実に6年という期間を経て世に送り出されました。この待望の新作は、前作の商業的な成功を引き継ぐ形で、アメリカやイギリスをはじめとする世界各国の主要な音楽チャートで高位を記録し、ガブリエルのキャリアにおける重要な作品の一つとなりました。

制作背景とサウンドの特徴

本作の制作は、ピーター・ガブリエル自身の私的な経験、特に人間関係における内省的な側面に深く根差しています。離婚や新たな人間関係といったテーマが、歌詞やサウンドに色濃く反映されていると言われます。音楽的には、これまでのガブリエルの作品と同様に、ロックを基盤としながらも、ワールドミュージックからの影響、特にアフリカや中東のリズムや楽器が巧みに取り入れられています。また、当時の最新鋭のテクノロジーも積極的に活用されており、実験的でありながらも、洗練された深みのあるサウンドを構築しています。

豪華な参加アーティスト

『Us』の大きな特徴の一つは、作品を彩る豪華なゲスト・ミュージシャンたちの参加です。長年にわたりガブリエルを支えるベーシストのトニー・レヴィンやギタリストのデヴィッド・ローズといった馴染みのメンバーに加え、本作には音楽史に名を刻む錚々たる顔ぶれが集結しました。革新的な音楽家として知られるブライアン・イーノ、アイルランド出身の個性派シンガー、シネイド・オコナー、そして伝説のロックバンド、レッド・ツェッペリンのベーシスト、ジョン・ポール・ジョーンズらが、それぞれ独特の才能でアルバムに貢献しています。その他にも、レヴォン・ミナッシアン（ドゥドゥク）、L.シャンカール（ヴァイオリン）、マヌ・カチェ（ドラム）など、多岐にわたるジャンルの名手たちが参加し、作品に豊かな多様性をもたらしています。

シングルカットとチャート成績

アルバムのリリースに先行して、内省的なテーマを扱った楽曲「この夢の果て (Digging in the Dirt)」がシングルとして発表され、全英シングルチャートで24位、全米シングルチャートで52位を記録しました。その後も、ファンキーなグルーヴが特徴の「スティーム (Steam)」が全英10位、全米32位とヒットを飛ばし、他にも「エデンの情熱 (Blood of Eden)」（全英43位）、「キス・ザット・フロッグ (Kiss That Frog)」（全英46位）といった楽曲がシングルとしてカットされ、アルバムへの注目度を高めました。

日本盤の特別なエピソード

日本で発売された初回盤には、ボーナストラックとして「BASHI-BAZOUK」が特別に収録されていました。しかし、この楽曲がアルバム全体のコンセプトや流れから逸脱しているとして、アーティスト側から異論が出され、最終的には回収されるという異例の事態となりました。これは、作品全体の芸術性や統一性を重視するピーター・ガブリエルならではのエピソードと言えるでしょう。

収録曲

全作詞・作曲: ピーター・ガブリエル

1. 「カム・トーク・トゥ・ミー」 - "Come Talk to Me" – 7:06
2. 「ラヴ・トゥ・ビー・ラヴド」 - "Love to Be Loved" – 5:18
3. 「エデンの情熱」 - "Blood of Eden" – 6:38
4. 「スティーム」 - "Steam" – 6:03
5. 「オンリー・アス」 - "Only Us" – 6:30
6. 「河は流れて」 - "Washing of the Water" – 3:52
7. 「この夢の果て」 - "Digging in the Dirt" – 5:18
8. 「フォーティーン・ブラック・ペインティングス」 - "Fourteen Black Paintings" – 4:38
9. 「キス・ザット・フロッグ」 - "Kiss That Frog" – 5:20
10. 「シークレット・ワールド」 - "Secret World" – 7:03

日本盤ボーナストラック

「BASHI-BAZOUK」 - "Bashi-Bazouk" – 4:46

参加ミュージシャン（一部）

アルバムの制作には、ピーター・ガブリエル（ボーカル、キーボード他）を中心に、ベースのトニー・レヴィン、ギターのデヴィッド・ローズ、ドラムのマヌ・カチェといったレギュラーメンバーに加え、先述のブライアン・イーノ（キーボード）、シネイド・オコナー（ボーカル）、ジョン・ポール・ジョーンズ（スルド、ベース、キーボード）らが参加しています。その他にも、多数のエンジニア、プログラマー、そして様々な楽器奏者やボーカリストが名を連ねており、総勢数十名に及ぶクレジットは、このアルバムがいかに多くの才能の協力によって生み出されたかを物語っています。特に、ワールドミュージック系のパーカッションや民族楽器の奏者が多数起用されている点は、本作のサウンドの多様性を象徴しています。

『Us』は、ピーター・ガブリエルが自身の内面と向き合い、それを革新的かつ普遍的な音楽へと昇華させた作品であり、彼のディスコグラフィーの中でも重要な位置を占めています。

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