VA線ストリッパー

VA線ストリッパーとは

VA線ストリッパーは、VA線（別名Fケーブル）の被覆を剥ぎ取るための専用工具です。VA線は、主に一般建築物の屋内配線に使用される低電圧電線の一種で、この工具は日本で独自に開発され、現在も国内市場に限定して販売されています。この記事では、特に被覆の切断と引き剥がしを一度の操作で行うタイプのVA線ストリッパーに焦点を当て、その開発の歴史、技術的な詳細、および市場の動向について詳しく解説します。

開発の歴史

1970年代、電気工事の現場では、電工ナイフ、ペンチ、ニッパー、ドライバーが主な工具でした。熟練した作業者は、電工ナイフを使ってVA線の被覆を迅速かつ正確に剥いていました。しかし、電工ナイフの扱いに不慣れな若手作業者は、被覆剥きに苦労していました。この課題に着目したのが、MCC（松阪鉄工所）でした。

MCCは、ユーザーへのフィールド調査を通じて、様々な試作品をテストし、意見を収集しました。熟練工の作業時間と工具コストを比較し、操作性が認められるまで改良を重ねました。その結果、1980年にVA線専用の被覆剥き工具「VA線ストリッパー」を商品化しました。当時、電工ナイフが当然とされていた状況下で、この専用工具の登場は画期的でした。

VA線（Fケーブル）とは

VA線は、正式名称を600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル（JISC3342）といい、平形が特徴です。俗称として「VA線」または「Fケーブル」と呼ばれています。VAはビニルアーマー、Fはフラットを意味します。正式な英文名称は「600V Polyvinyl chloride insulated and sheathed cables」です。一般的にはVVFという略称で知られています。

技術的側面

VA線ストリッパーの開発初期、MCCはΦ1.6mmとΦ2.0mmの2種類の心線に対応した4サイズ（2心と3心）の被覆を、一回の操作で切断・剥離できることを目標としました。しかし、異なるサイズを一つの刃物で正確に処理することは技術的に非常に困難でした。そのため、まずは使用頻度の高いΦ1.6mm用のモデルを1980年に、次にΦ2.0mm用を1986年に商品化しました。

当初は、熟練工の間では電工ナイフが主流であり、専用工具であるVA線ストリッパーの需要は限定的でした。しかし、パナソニック電工（当時松下電工）が新商品の取り付けに推奨工具として採用し、広く普及することとなりました。その後、1992年にはメリー（室本鉄工）やVESSEL（ベッセル）といった他の工具メーカーも参入し、市場が拡大しました。

新規参入と技術革新

1999年以降、LOBTEX（ロブテックス）、VICTOR（花園工具）などのメーカーが参入し、競争が激化しました。特にVICTORは、MCCの製品を分析し、刃の構造を改良することで、切断時の抵抗を減らし、よりスムーズな被覆剥きを実現しました。また、操作ハンドルの形状やリンク機構にも工夫を凝らし、操作性を向上させました。

エコ電線への対応

ダイオキシン問題から、環境に配慮したエコ電線（EM-EEFなど）が導入されるようになると、VA線ストリッパーにも新たな課題が生じました。エコ電線は被覆材が硬いため、切断にはより大きな力が必要とされ、従来のVA線ストリッパーでは対応が難しくなりました。また、エコ電線はメーカーによってシースのサイズにばらつきがあり、一部が完全に剥き取れないという問題もありました。

このため、各社はVA線ストリッパーの改良を急ぎました。MCCは、カム機構によって刃の軌跡を制御する独自の技術を開発し、エコ電線にも対応できるモデルを2005年に発売しました。VICTORも同様に改良を加え、1丁で4線種の被覆剥きができるモデルを発売しました。LOBTEXやメリーも、リンク機構の改良や刃の調節機能を付加するなど、様々な工夫を凝らしました。

ワイヤストリッパーの老舗VESSELも2009年にVA線ストリッパー市場に参入し、被覆の切断と引抜を別々に行う独自のモデルを開発しました。これにより、より確実にシースを剥がすことができるようになりました。

刃の調節

VA線はJIS規格で規定されているものの、被覆の寸法には公差が定められていないため、メーカーによって微妙な違いがあります。VA線ストリッパーは、Φ1.6mmとΦ2.0mmという2種類の心線サイズに1つの刃物で対応するという高い技術が求められる工具です。そのため、刃の調整が不可欠であり、各メーカーは取扱説明書に従って調整することを推奨しています。

まとめ

VA線ストリッパーは、電気工事の現場において、作業効率と安全性を向上させるために不可欠な工具です。その開発の歴史は、技術革新と市場のニーズに対応するためのメーカーの努力の結晶と言えるでしょう。今後も、より使いやすく、高機能なVA線ストリッパーの開発が期待されます。

参考文献

U.S. Patent number: D269152 MCC
『第一種電気工事士技能試験公表問題の合格回答』 オーム社、2010年、221頁から223頁。
『第二種電気工事士技能完全マスター』 オーム社、2010年、77頁と91頁から93頁。
『フルカラー実習第２種電気工事士技能検定-改定２版』 オーム社、2009年、67頁。
Google ブックス、2010年6月5日 『第二種電気工事士技能候補問題の解説』 日本電気協会 オーム社、2008年、173頁参照。

関連項目

ワイヤーストリッパー
* 電線

もう一度検索