Valve Anti-Cheat

Valve Anti-Cheat (VAC) について

Valve Anti-Cheat (VAC) は、Valve Corporationが開発した、Steamプラットフォームにおける不正行為 (チート) を検出するためのソフトウェアです。2002年に初めて『カウンターストライク』に導入されて以来、VACはSteamにおけるチート対策の要となっています。VACは、チート行為を検出すると、プレイヤーのアカウントをVAC保護されたゲームサーバーから永久に締め出し、さらにSteamアカウント自体にも追加の制限を課します。

歴史

2001年、人気アンチチートソフトウェアであった「PunkBuster」の開発元がValveからのサポートを受けられず、ゲームへのサポートを停止しました。当時、Valveはチート対策技術のゲームへの統合を拒否し、その後、長期的なチート対策の開発に注力することになります。

2002年、VACの最初のバージョンが『カウンターストライク』向けにリリースされました。初期のシステムでは、チートが確認された場合、プレイヤーは24時間のみ利用禁止となりましたが、その後、この期間は次第に長くなり、最終的には2005年にリリースされたVAC2によって恒久的な利用禁止措置が導入されました。VAC2は、発表の翌月にはベータテストが開始されました。2006年11月には、新しいVACシステムによって1週間で1万件以上の不正行為が検出されたことが発表されました。

2010年には、『Team Fortress 2』のゲーム内アイテムに関する情報漏洩により、一部のプレイヤーがVACによって利用を禁止される事件が発生しました。また、同月には、Steamのアップデートによる誤検出で約12,000人の『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2』のプレイヤーが一時的に利用禁止となりました。これらの禁止措置は後に取り消され、影響を受けたプレイヤーには『Left 4 Dead 2』が無料で提供されました。

2014年2月には、VACがユーザーのDNSキャッシュにアクセスし、ユーザーが閲覧したウェブサイトを監視しているという噂が広まりました。Valveはこれを否定し、カーネルレベルのチートプログラム検出のための二次的な対策であることを明らかにしました。

2016年5月、VACは利用を禁止されたアカウントと同じ電話番号で関連付けられたアカウントにも同様の処置を行うようになりました。また、『Team Fortress 2』で人気のあったチートプログラム「LMAOBOX」を検出できるようになり、一度に3,000件以上の禁止処置が実行されました。

2017年2月、Valveは『カウンターストライク グローバル・オフェンシブ』におけるチート検出に機械学習のアプローチを導入しました。この時点では、初期バージョンがリリースされており、プレイヤーが手動でチートを検出できるOverwatchシステムが導入されました。

システムの仕組み

VACの具体的な設計については、チート開発者による悪用を防ぐために、ほとんどが公開されていません。基本的には、VACはクライアントにチャレンジを送信し、適切な応答が得られない場合に不正行為のフラグを立てます。また、ヒューリスティックを用いてコンピュータのメモリやプロセスをスキャンし、チートプログラムの存在を検出します。異常が検出されるとインシデントレポートが作成され、Valveのエンジニアによって分析されます。新しいチートプログラムが確認されると、その情報がデータベースに追加されます。

SteamのリードエンジニアであるJohn Cookによると、VACは常に更新され、データを小分けにして送信することで、ハッカーによる悪用を防いでいるとのことです。

チート検出からBANまで

Valveはチートプログラムやそれを取り扱うウェブサイトの情報をメールで受け付けています。Steamコミュニティプロフィールからも不正行為の疑いがあるプレイヤーを報告できますが、これらの情報だけでは利用禁止には至りません。

チートが検出されると、プレイヤーのSteamアカウントには即座にフラグが立てられます。しかし、実際にVAC保護されたサーバーからアカウントがBANされるまでには、「数日または数週間」の遅延があることが多いです。ゲームによってはBANまでに数週間から数ヶ月かかる場合もあり、プレイヤーからの批判も発生しています。

追加の制限

VACによって利用を禁止されたプレイヤーは、Steamアカウントにも追加の制限を受けます。例えば、ファミリー共有機能が利用できなくなり、アカウント間でのアイテムの移動やゲームの返金、Steam Translation Serverプロジェクトへの参加も制限されます。

社会的な影響

BANされたアカウントはプロフィールに「VAC検出記録」が表示され、これはプライバシー設定に関わらず一般公開されます。2011年の分析では、BANされたフレンドユーザーが多いユーザーほど、自身もVACによってBANされる可能性が高い傾向が示されました。VACによってBANされたプレイヤーは、しばしば「休暇中（Going on "VACation"）」と揶揄されます。

eスポーツにおける事例

VACによってBANされたプレイヤーは、ほとんどのeスポーツトーナメントから追放されます。2014年には、プロゲーマーのemilioがライブストリーミング中にBANされ、その後、チート使用を認めました。他にも、KQLY、smn、Sfといったプロゲーマーも、大会直前にVACによってBANされています。

まとめ

Valve Anti-Cheat（VAC）は、Steamプラットフォームの健全性を維持するために不可欠なアンチチートソフトウェアです。常に進化を続けるチート行為との戦いの中で、VACは今後も重要な役割を果たし続けるでしょう。

参考情報

Valve Anti-Cheat(VAC) システム - Steamサポート
Valve Anti-Cheatが有効化されたゲームの一覧

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