W32TeX

W32TeXとは

W32TeXは、日本のコンピュータ研究者である角藤亮氏によって開発・配布されたTeXディストリビューションの一つです。特に、日本語組版システムであるpTeXおよびpLaTeXをMicrosoft Windows環境（当初は32bit版、後に64bit版も追加）で利用可能にした点が特徴です。これにより、当時主流であったTeX環境では日本語を扱えなかったユーザーにとって、Windows上で手軽に日本語対応のTeXを利用できる重要な選択肢となりました。

日本語TeX環境としての普及

2000年代中盤まで、TeXディストリビューションの世界的な主流はteTeXでした。しかし、このteTeXには日本語を扱うためのpTeXやpLaTeXが含まれていませんでした。このような状況下で、角藤氏がこれらの日本語処理系をWindows 32bitオペレーティングシステム上で動作するように移植したものがW32TeXです。

この移植版が登場したことで、Windowsユーザーは別途複雑な設定をすることなく、日本語ドキュメントを作成するためのTeX環境を構築できるようになりました。これにより、W32TeXは特に日本のTeXユーザーの間で広く普及しました。

2006年5月、teTeXの開発者であるThomas Esser氏は開発の終了を発表し、後継としてTeX Liveの利用を推奨しました。この流れを受けて、W32TeXも時代の変化に対応し、主要なTeXディストリビューションであるTeX Liveのコンポーネントを積極的に取り込むように進化していきました。これにより、W32TeXは単なるpTeX/pLaTeXの移植版から、より包括的なTeX環境へと発展しました。

開発の歴史と主な更新

W32TeXの開発は、1994年頃からWindows向けの各種TeX関連アプリケーションのバイナリ配布という形で始まりました。その後、主要な日本語TeX環境として確立されていきました。

特筆すべき更新履歴としては以下の点が挙げられます。

1994年頃: Windows用TeX関連バイナリの配布を開始。
2009年8月: 日本語処理系の改良版であるε-pTeXがW32TeXに組み込まれました。
2011年4月: 楽譜組版システムであるMusiXTeXが統合されました。
2012年5月: 主要なTeXディストリビューションであるTeX Liveのコンポーネントを取り込み、より包括的な環境へと移行しました。
* 2013年7月: Windows 64bit版環境に対応するためのファイルの配布が開始され、より多くのユーザー環境で利用可能になりました。

プロジェクトの終焉と現状

長年にわたり日本のWindowsユーザーにTeX環境を提供してきたW32TeXですが、2021年7月をもって開発・更新が終了しました。これに伴い、公式サイトへのアクセスも不可能となりました。

現在、W32TeXのファイル群は、TeX Users Group (TUG) の歴史的アーカイブサイトである「TUG historic」内の `/systems/w32tex/` ディレクトリに保管されており、歴史的な資料として、あるいは特定の目的のために必要とするユーザーがアクセスできるようになっています。

日本語TeX環境の普及と発展において、W32TeXが果たした役割は大きく、特にWindowsユーザーにとってTeXを身近なものにする上で重要な貢献をしました。その開発終了は一つの時代の終わりを告げるものとなりましたが、その成果はアーカイブとして今も残されています。

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