WD40リピート

概要

WD40リピートは、タンパク質構造に見られる特徴的なモチーフの一つです。これは、およそ40個のアミノ酸残基からなる比較的短い配列の繰り返しによって構成されています。この構造が「WD40リピート」と呼ばれるのは、多くの繰り返し配列の末尾が、アミノ酸であるトリプトファン（W）とアスパラギン酸（D）のペアで終わっていることに由来します。また、この構造は「WDリピート」や「βトランスデューシンリピート」としても知られています。これらの繰り返し単位が複数集まることで、独特の三次元構造を作り出します。

構造的特徴

WD40リピート構造を含むタンパク質は、通常4個から16個の繰り返し単位を持っています。これらの繰り返し単位が規則的に配置されることで、あたかも円筒状の「プロペラ」のような形状を形成します。この構造は、特に「β-プロペラ構造」として知られています。

個々のWD40リピート単位は、約20アミノ酸の比較的変化しやすい領域と、より保存された（共通性の高い）アミノ酸配列部分から構成されています。この共通性の高い部分は、通常、4本の「ブレード」と呼ばれる逆平行なβシート構造を形成します。これらのブレードが積み重なるように会合することで、全体のプロペラ構造が出来上がります。最も一般的に見られるのは、7枚のブレードから構成されるβ-プロペラです。

さらに興味深いのは、これらのブレードが単独で存在するのではなく、互いに連携して構造を形成している点です。具体的には、あるリピート単位の最後のβストランド（シートを構成する一本鎖）が、次のリピート単位の最初の3つのストランドと協力して一つのブレード構造を完成させます。このような連動した構造形成が、全体の安定したβ-プロペラ構造を支えています。

機能

WD40リピートを含むタンパク質は、すべての真核生物に広く存在しており、非常に大きなタンパク質ファミリーを形成しています。これらのタンパク質は、細胞内で進行する非常に多岐にわたる生命活動に関与しています。

具体的な機能としては、細胞が外部からの情報を受け取り内部に伝える「シグナル伝達」、遺伝子の情報を読み取りタンパク質を合成する過程を調節する「転写調節」、細胞が増殖・分裂する周期を制御する「細胞周期制御」、細胞内の不要な成分を分解・再利用する「オートファジー」、そして細胞が自ら死滅する「アポトーシス」（プログラム細胞死）などが挙げられます。

このように多様な機能に関わるWD40リピートタンパク質ですが、その根幹にある基本的な機能は、複数のタンパク質が一時的または恒常的に集まって機能する「複合体」の形成を助けることです。WD40リピートによって形成されるβ-プロペラ構造は、他のタンパク質が結合するためのしっかりとした「足場」として機能します。これにより、様々なタンパク質が正確な位置に集まり、特定の機能を発揮するための複合体が効率的に組み立てられます。

どのタンパク質と相互作用するかという「結合特異性」は、主にWD40リピート自体の繰り返し配列によって決定されるのではなく、リピート構造を取り囲む、繰り返し配列以外の領域によって細かく調整されると考えられています。

WD40リピートドメインを持つタンパク質が構成要素となる重要なタンパク質複合体の例としては、細胞内外のシグナル伝達に関わる「Gタンパク質」（そのβサブユニットがβ-プロペラ構造をとります）、遺伝子転写に関わる「TAFII転写因子」、不要なタンパク質にユビキチンを付加する「E3ユビキチンリガーゼ」などがあります。

例

ヒトゲノムの解析によると、WD40リピートを含むタンパク質のファミリーは、全タンパク質ファミリーの中で8番目に大きなグループを占めています。これは、この構造がヒトを含む真核生物においていかに重要であるかを示しています。

非常に多くのWD40リピート含有タンパク質が存在しますが、代表的な例としては、APAF1（アポトーシス関連）、CDC20（細胞周期関連）、GNB（Gタンパク質βサブユニット）、KEAP1（オートファジー、シグナル伝達関連）、LRBA（免疫機能関連）、RBBPファミリー（転写調節、クロマチン関連）、SEC13やSEC31A（小胞体-ゴルジ輸送関連）、そして数多く存在するWDRファミリー（WDR1, WDR5, WDR77など）などが挙げられます。これらのタンパク質はそれぞれ異なる機能を持っていますが、いずれもWD40リピート構造を介した他のタンパク質との相互作用がその機能発現に不可欠です。

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