X非効率

「X非効率（えっくすひこうりつ）」は、経済学の理論が想定する企業の理想的な効率的行動と、実際の企業活動において観察される行動との間に生じる差異を指す概念です。この考え方は、1966年にアメリカの理論経済学者、ハーヴェイ・ライベンシュタイン氏が発表した論文「Allocative Efficiency vs. X-Efficiency（配分効率性とX効率性）」の中で初めて提示されました。

標準的な経済理論においては、企業を経営する者（経営者）は、リスクを最小限に抑えつつ、経済的な利益を最大限に追求することで、最終的に企業の所有者（株主など）の富を最大化するように行動するものと仮定されます。このような行動は、通常、市場における需要と供給の状況に応じて最適な生産量を決定し、同時に生産活動にかかる費用を可能な限り抑えることによって達成されると考えられています。特に、市場が完全競争の状態にあり、企業の市場への参入や退出が自由に行われるという条件下では、企業は生産量を調整する際に、商品の販売価格と、もう一つ単位を追加で生産するためにかかる費用（限界費用）が等しくなるように決定するとされています。さらに長期的な視点で見れば、企業は、長期的な平均費用が最小となる生産量を選択すると考えられています。これは、通常、長期的な限界費用と長期的な平均費用が等しくなる水準に一致します。このような理論的な状況下では、企業の経済学的な意味での利潤はゼロとなり、消費者はその商品の生産にかかる限界費用に等しい価格で商品を手に入れることができます。また、この状態は、経済全体における資源の配分効率性（allocative efficiency）が最も理想的なレベルで実現されていると見なされます。

しかしながら、実際の企業活動に関する様々な実証的な研究の結果は、必ずしも上記の理論通りにはなっていないことを示しています。多くの企業が、長期的な平均費用が最小になるような生産量を選択しておらず、結果として非効率な状態が生じていることが明らかになっています。

このように観測される非効率性の中には、市場の不完全競争といった従来の経済学の枠組みを用いて説明が可能なメカニズムに起因するものも含まれます。しかし、一方で、従来の経済学の理論的な枠組みだけでは十分に説明することが困難な非効率性も存在します。ハーヴェイ・ライベンシュタイン氏が提唱したX非効率性とは、まさにこのように、従来の経済学のモデルや仮定だけでは説明しきれない非効率性のことを指す概念なのです。

X非効率性という概念は、従来の経済学が仮定する完全な合理性や効率性だけでは現実の企業行動を十分に理解できないことを示唆しており、経済学における企業の行動理論や組織論の研究において重要な視点を提供しました。

もう一度検索