ハーヴェイ・ライベンシュタイン

ハーヴェイ・ライベンシュタイン（Harvey Leibenstein、1922年8月 - 1994年2月28日）は、20世紀後半に活躍したアメリカ合衆国の理論経済学者です。彼は、従来の経済学では十分に扱われてこなかった消費者行動における社会的・心理的要因や、企業内部組織の非効率性に焦点を当てた独創的な研究を行い、経済学の領域を大きく広げました。

経歴

ライベンシュタインは1922年8月、ソビエト連邦時代のウクライナで生を受けました。幼少期にカナダへ移住した後、アメリカ合衆国へ渡り高等教育を受けます。1945年にノースウェスタン大学で経済学の学士号（BA）を取得し、翌1946年には同大学で修士号（MA）を取得しました。その後、1949年には国際連合の人口局に社会事務官として勤務するなど、国際的な舞台でも経験を積みました。学術的な研鑽を深め、1951年にはプリンストン大学から博士号（Ph.D.）を取得しました。

博士号取得後、ライベンシュタインはカリフォルニア大学バークレー校で教鞭を執り始めますが、同時に著名な研究機関であるランド株式会社の顧問役も兼任しました。1960年にはバークレー校の経済学教授に昇進し、精力的に研究と教育に取り組みました。1978年から1979年にかけては1年間の休暇を利用し、プリンストン大学の上級研究所で集中的に研究活動を行いました。その後、長年にわたりハーバード大学でも教鞭を執り、多くの研究者や学生に影響を与えました。1994年2月28日、マサチューセッツ州ケンブリッジの自宅でその生涯を終えました。

主な研究と業績

ライベンシュタインの経済学への貢献は多岐にわたりますが、特に消費外部性理論と企業内部組織論（X非効率性理論）が知られています。

1950年に発表した記念碑的な論文『Bandwagon, Snob and Veblen Effects in the Theory of Consumers' Demand（消費者需要理論におけるバンドワゴン効果、スノッブ効果、及びヴェブレン効果）』の中で、彼は従来の需要理論が見過ごしていた、消費者の購買行動が他者の消費行動や価格に影響される側面を分析しました。ここで提示された

バンドワゴン効果：他の消費者がその商品を多く買うほど、自分も買いたくなるという現象
スノッブ効果：他の消費者がその商品を多く買うほど、自分は買うのをやめたくなるという現象（バンドワゴン効果の逆）
ヴェブレン効果：価格が高いほど、それが一種のステータスシンボルとなり、需要が増加するという現象

これらの概念は、需要理論に心理的・社会的要因を取り入れ、経済学だけでなくマーケティング分野などでも広く認知されるようになりました。

また、ライベンシュタインは人口経済学の分野にも重要な貢献をしました。1954年の著書『A Theory of Economic-Demographic Development（経済学的人口学的発達の理論）』では、トマス・マルサスによる古典的な人口論と経済成長理論を統合的に分析し、人口動態が経済発展に与える影響について理論的な枠組みを提供しました。

さらに、彼の名を高めたもう一つの重要な業績が、1966年の論文『Allocative Efficiency vs. X-Efficiency（配分効率とX効率）』で提唱されたX非効率性の概念です。主流派経済学では、企業は常に費用を最小化し、利潤を最大化するように合理的に行動すると想定されていました。しかし、ライベンシュタインは、現実の企業では従業員が必ずしも最大限の努力をするとは限らず、自身の効用（満足度）を追求したり、組織内の人間関係や慣習に影響されたりするため、資源の最適な配分（配分効率）が達成されていても、生産プロセスそのものに非効率性が発生すると主張しました。彼はこの内部的な非効率性をX非効率と名付け、企業行動や生産性に関する議論に新たな視角をもたらしました。X非効率性の概念は、組織論や経営学にも大きな影響を与えています。

ライベンシュタインは、このように既存の経済学の枠組みを超え、人間の行動や組織の現実に深く根差した分析を展開しました。彼の研究は、経済学が対象とする範囲を広げ、より複雑な現実を理解するための重要な礎石となっています。

主要著作

Bandwagon, Snob and Veblen Effects in the Theory of Consumers' Demand (論文, 1950)
A Theory of Economic-Demographic Development (書籍, 1954)
Economic Backwardness and Economic Growth (書籍, 1957)
Allocative Efficiency vs. X-Efficiency (論文, 1966; 書籍, 1966)
Beyond Economic Man (書籍, 1976)
* Inflation, Income Distribution and X-efficiency Theory (書籍, 1980)

ライベンシュタインの理論は、その後の経済学研究、特に行動経済学や組織の経済学といった分野に多大な示唆を与えています。

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