X-43 (航空機)

NASA X-43：世界最速の無人実験機

X-43は、アメリカ航空宇宙局（NASA）が極超音速技術の研究を目的に開発した無人の実験機です。愛称は「ハイパーX（Hyper-X）」。スクラムジェットエンジンを搭載し、2004年11月16日にはマッハ9.68（時速約11,854km）という驚異的な速度を記録し、エア・ブリージングエンジンを搭載した航空機として世界最速の記録を打ち立てました。

開発の背景と目的

X-43の開発は、極超音速飛行におけるスクラムジェットエンジンの性能や挙動を検証する「ハイパーX計画」の一環として始まりました。この計画の主目的は、将来の再使用型宇宙往還機の開発に必要なデータ収集でした。1996年10月9日に計画が発表され、当初はA型を皮切りにB、C、D型と、複数の機体を製造し、様々な実験を行う予定でした。X-43Bでは複合サイクルエンジンの搭載、X-43Cでは炭化水素系燃料の使用が検討されていましたが、計画の遂行には莫大な予算が必要となり、B型以降の機体は残念ながらキャンセルされることになりました。また、飛行計画自体も大幅に削減されることとなりました。

飛行実験の経緯

X-43の飛行実験は、決して順風満帆とは言えませんでした。2001年6月2日に行われた最初の実験では、加速用のペガサスロケットに不具合が発生し、空中発射からわずか11秒後に機体は太平洋へと落下、喪失してしまいました。この事故により、計画は一時的に遅延を余儀なくされました。しかし、約3年後の2004年3月27日には2回目の飛行試験が行われ、マッハ6.83の速度を記録することに成功しました。そして、2004年11月16日、結果的に最後の飛行となった3回目の飛行試験において、マッハ9.68という最高速度を達成し、X-43計画は幕を閉じました。

機体形状と飛行方法

X-43の機体は非常にコンパクトで、全長は大人の身長ほどしかありません。機体形状は、X-30のジェネラル・ダイナミクス案に類似したリフティングボディ構造を採用しており、機体全体で揚力を生み出すように設計されています。機体側面と上面には小さな主翼と2枚の垂直尾翼が備えられ、胴体下部には箱型のスクラムジェットエンジンが搭載されています。推進剤には液体水素を使用し、空気中の酸素を酸化剤として利用します。燃料搭載量はわずか約1kgです。

飛行方法は、まずブースターとして改造されたペガサスロケットの先端にX-43を搭載した状態で、NASAのNB-52に吊り下げられ、高度約1万メートルの上空まで運ばれます。その後、空中発射され、ペガサスロケットでさらに高度を上げ、マッハ2まで加速した後、ブースターを切り離し、スクラムジェットエンジンを作動させます。スクラムジェットエンジンの燃焼時間はわずか10秒足らずですが、この間にマッハ10近くまで加速し、高度3万メートルを飛行します。エンジン停止後は、滑空しながらデータを収集し、機体はそのまま廃棄されます。つまり、X-43は使い捨ての機体として設計されていたのです。

後続計画

X-43計画は、A型の3回の飛行実験をもって終了しました。その後、液体水素ではなく、より一般的な炭化水素燃料を使用し、マッハ7程度までの加速を目指すX-51計画へと引き継がれました。

スペック

乗員：無人
全長：3.7メートル
全幅：1.5メートル
全高：0.6メートル
動力：スクラムジェットエンジン×1基
最大速度：マッハ9.68（時速12,144キロメートル）
最大到達高度：30,500メートル
航続距離：1,100キロメートル

参考文献

『Xの時代―未知の領域に踏み込んだ実験機全機紹介』 文林堂〈世界の傑作機スペシャル・エディション〉、2004年、74-75頁、ISBN 4-89319-117-9

外部リンク

NASA: X-43
Hyper-X: NASA Langley Hypersonic Airbreathing Propulsion Branch Website
AMERICAN X-VEHICLES An Inventory—X-1 to X-50 NASA資料 2003年
X-43 Hyper-X Program. GlobalSecurity.org
NASA Seeks New Frontier in Jet Engines. New York Times.
* Listed number 1 on the top 50 fastest aircraft at GlobalAircraft.org

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