X-51 (航空機)

X-51 ウェーブライダー

X-51は、音速の数倍を超える極超音速での飛行を可能にするスクラムジェットエンジンの実証を目的として開発された無人試験機です。これは一連の先進技術試験機であるXプレーン計画の一環として進められ、通常のターボジェットエンジンでは機能しない超高速域でのスクラムジェット技術の確立を目指しました。本機の開発には、アメリカ空軍を中心に、ボーイング社、プラット・アンド・ホイットニー・ロケットダイン社、国防高等研究計画局（DARPA）、およびアメリカ航空宇宙局（NASA）といった官民の複数の機関が共同で携わりました。その特徴的な飛行形態から、「ウェーブライダー」という愛称でも知られています。

開発経緯と技術特徴

X-51の研究開発は2003年に始まり、2005年に正式名称としてX-51が付与されました。2006年にはNASAのラングレー研究所でエンジンの地上燃焼試験が実施されています。先行して開発された極超音速試験機X-43の後継にあたりますが、X-43が燃料に液体水素を用いたのに対し、X-51は炭化水素系のジェット燃料であるJP-7（引火点を高めるよう合成された燃料）を使用するなど、いくつかの技術的な変更が加えられています。また、ロケットブースター部もX-43がペガサスロケットを流用したのに対し、X-51では地上攻撃ミサイルATACMS（MGM-140）のものが活用されています。

飛行試験は、大型母機NB-52Hによって高度約10,700メートル（35,000フィート）まで運ばれ、そこから空中投下される方式が採用されました。投下された機体は、まずATACMSから流用したロケットブースターによってマッハ4.5まで加速され、その後、機体中央部に搭載されたスクラムジェットエンジンに点火し、マッハ6からマッハ7を超える極超音速での巡航を目指しました。

機体自体は無人機のため比較的小型で、特徴的な形状をしています。胴体後部がブースター部となっており、機体中央部後方に4枚、尾部（ブースター部末端）に6枚の小型翼を備えています。エンジンへの空気取り入れ口であるインテイクは機体下面に位置します。設計思想においては、XB-70超音速爆撃機で採用されたコンプレッション・リフトという概念が取り入れられています。X-51の開発で培われたスクラムジェット技術は、将来の極超音速ミサイル開発構想であるConventional Strike Missileなどの背景技術の一つとも位置づけられています。

試験飛行

X-51Aとして合計4機が製造され、これらの機体を用いて実際の飛行試験が実施されました。当初2009年に予定されていた初飛行は延期され、2010年5月26日に実施されました。NB-52H母機から高度約15,000メートルで切り離された後、ロケットブースターによる加速を経てスクラムジェットエンジンが点火されましたが、技術的な不具合によりエンジンの燃焼は目標時間より早く停止し、マッハ4.88までの到達に留まりました。これは部分的な成功と評価されました。

2回目の飛行試験は2011年6月13日に行われましたが、ブースター加速後のスクラムジェットエンジンが正常に作動せず、目標速度に達することなく失敗に終わりました。

3回目の試験は2012年8月14日に実施されました。母機からの分離、ブースターの点火・分離までは順調でしたが、その後の極超音速飛行に移行する段階で制御翼に不具合が発生し、機体が制御不能となりました。これによりスクラムジェットエンジンは点火されず、機体は太平洋に墜落し、試験は失敗となりました。

プロジェクトの最後の飛行試験となる4回目は、2013年5月1日に実施されました。この試験は、これまでの経験を活かし、完全な成功を収めました。B-52Hからの切り離し後、ブースターロケットは機体をマッハ4.8まで加速させました。その後、ブースターからの分離もスムーズに行われ、X-51独自のスクラムジェットエンジンが見事に点火されました。試験機は安定して飛行を続け、目標を上回るマッハ5.1に到達し、約210秒間の長時間にわたりスクラムジェットエンジンによる巡航飛行を行いました。燃料が尽きた後、機体はカリフォルニア州沖の太平洋に着水しました。総飛行時間は6分を超えるもので、これはエアブリージング式の極超音速飛行としては当時最長の記録となりました。

この最終試験では、飛行中の約370秒間にわたり貴重な遠隔測定データが収集されました。アメリカ空軍研究所は、この成功した飛行で得られたデータが、将来のミサイル、偵察機、輸送機、さらには宇宙輸送システムの第一段など、様々な分野での極超音速飛行の実用化に向けた研究開発に大きく役立つものと考えています。

主な仕様

（出典: X-51 Scramjet Engine Demonstrator - WaveRider (SED-WR) より）

乗員: なし
全長: 7.9 m (26 ft)
空虚重量: 1,814 kg (4,000 lb)
動力: Pratt & Whitney Rocketdyne SJX61/SJY61 ラムジェット/スクラムジェットエンジン × 1
最大速度: マッハ 7+ (約6,200 km/h、3,900 mph)
航続距離: 740 km (460 miles)
実用上昇限度: 21,300 m (70,000 ft)

関連項目

ウェイブライダー
ボーイング X-43
Conventional Strike Missile (英語)
* Falcon HTV2

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