X.400

ITU-T X.400シリーズ勧告 Message Handling System (MHS) について

ITU-T X.400シリーズ勧告は、電子メールに関する標準を定めたものです。この規格は、インターネットの電子メール標準としては広く採用されることはありませんでしたが、組織内での利用や、特定の商用電子メール製品に組み込まれる形で活用されてきました。

OSIにおける標準化

OSI（Open Systems Interconnection）においては、ISO/IEC 10021として「Message-Oriented Text Interchange Systems（MOTIS）」という名前で標準化されています。MHSとMOTISは、一部に細かな差異は存在するものの、技術的な観点からはほぼ同等と見なされています。

歴史

最初のX.400勧告は1984年に公表され、その後、1988年と1992年に大幅な改訂が行われました。当初、X.400はOSIトランスポートサービス上で動作するように設計されていましたが、RFC 1006によってTCP/IP上でも動作するようになり、これが一般的な利用方法となりました。

ISOとの共同で開発されたX.400シリーズ勧告は、電子メッセージの交換に関してOSI標準プロトコル群を指定しており、関連するF.400シリーズ勧告はMHS上に構築されるメッセージ処理サービスと、MHSと公衆サービス間のアクセスを定義しています。1990年代末には、ITU-TはF.400とX.400を統合し、F.400/X.400 (06/1999)「Message handling system and service overview」という勧告を発表しました。

技術的側面

X.400シリーズ勧告は、MHSの技術的な側面を詳細に定義しています。

X.402勧告（ISO/IEC 10021-2）: MHSのシステム全体のアーキテクチャを規定しています。
X.411勧告（ISO/IEC 10021-4）: メッセージ転送サービス（MTS）と、その機能コンポーネントであるメッセージ転送エージェント（MTA）を定義しています。
X.413勧告（ISO/IEC 10021-5）: メッセージストアについて規定しています。

これらの勧告では、システムの実体や手続きを説明するための専門用語が定義されています。例えば、個人間でのメッセージ交換は「Interpersonal Messaging（IPM）」とされ、企業間での電子構造化ビジネス文書交換はEDIプロトコルに分類されます。

SMTPとの比較

多くのISO標準はネットワークのアプリケーション層を扱っており、X.400はSMTPと競合する形となりました。しかし、X.400は北米以外、特にEDIサービスの用途で広く実装され、北米でも軍関係や航空関係で利用されました。これは、X.400が当初からセキュリティを重視していたためであり、SMTPが同様の機能（S/MIME|S_MIME、PGP、SMTP-TLSなど）を実装するよりも早かったことが理由として挙げられます。

メッセージ通信処理

メッセージ通信処理は、メッセージ転送とメッセージ記憶装置という2つの部分からなる分散情報処理です。ITU-T勧告では、さまざまな通信タスクに関するプロトコルを定義しており、例えば、P1プロトコルはMTA間の通信に、P3プロトコルは電子メールクライアントとMTA間の通信に、P7プロトコルは電子メールクライアントとメッセージ記憶装置間の通信に使用されます。

1994年版では、P7プロトコルの強化として、メッセージ記憶装置でのフォルダサポート、自動的なメッセージ分類、リプライ対応付け、配送レポート、受信通知などの機能が提供されました。

メッセージコンテンツ標準

X.400のメッセージコンテンツ標準は、電子メールクライアント間の通信のために定義されており、P1/P3/P7を基盤として、その上に概念的なプロトコルをモデル化しています。IPMのためのメッセージコンテンツ標準はX.420で定義され、Red BookではP2と呼ばれていました。Blue BookではIPMの拡張版としてcontent-type 22（P2 version 2）が導入され、一般にP22と呼ばれています。また、EDIのためのメッセージコンテンツ標準はF.435とX.435で定義され、非公式にP35と呼ばれています。

X.400の主な特徴

X.400の重要な特徴として、構造化されたアドレス指定、ASN.1によるマルチメディアコンテンツ（MIMEよりも効率的）、統合セキュリティ機能が挙げられます。

ITUは、X.400のドメイン間リレーを各国の電話会社が行うことを想定しており、X.400と他の電話会社のサービス（テレックス、ファクシミリ、郵便など）との自動的な相互乗り入れが可能となるようにアドレスフィールドを導入しました。しかし、この仕組みは、X.400の普及を妨げる一因となりました。

アドレス指定

X.400のアドレスは、以下の要素から構成されます。

C (Country name)：国名
ADMD (Administration Management Domain)：主官庁管理領域（通常、公衆メールサービス提供業者）
PRMD (Private Management Domain)：私設管理領域
O (Organization name)：組織名
OU (Organizational Unit Names)：部門名
G (Given name)：名
I (Initials)：イニシャル
S (Surname)：姓

当初、X.400の規格には電子メールアドレスの表記方法（例えば名刺への印刷）は示されていませんでした。RFC 1685では、1993年のITU-T勧告ドラフトF.401に基づいた符号化仕様が示されましたが、`G=Harald;S=Alvestrand;O=Uninett;P=Uninett;A=;C=no`のような形式のアドレスは複雑で分かりにくく、X.400が広まらなかった要因の一つとも言われています。

拡張バージョン

X.400には、軍事用（MMHS）と航空用（AMHS）に拡張されたバージョンが存在します。

関連項目

X.500
電子データ交換 (EDI)

標準化団体

国際電気通信連合 (ITU)
国際電気標準会議 (IEC)
国際標準化機構 (ISO)

参考文献

Betanov, Cemil (1993). Introduction to X.400. Boston: Artech House. ISBN 0-89006-597-7

規格・標準

RFC 1615 - Migrating from X.400(84) to X.400(88)
RFC 1649 - Operational Requirements for X.400 Management Domains in the GO-MHS Community
JIS X 0032:1999「情報処理用語―電子メール」

外部リンク

International Telecommunication Union - Telecommunication Std. Sector - ITU-T勧告のリスト
International Electrotechnical Commission - IECについて
Sending Messages - Routing and Transport - "The Battle Between SMTP and X.400" の節を参照
Harald T. Alvestrand's X.400 FAQ - X.400 シリーズ標準に関する各種資料のリスト（最終更新は1995年）
X400.org

X.400 標準

X.400標準はITU-Tから無料で入手可能です。

ITU-T Rec. F.400/X.400 | ISO/IEC 10021-1 Message handling system and service overview
ITU-T Rec. X.402 | ISO/IEC 10021-2 Message Handling Systems (MHS): Overall architecture
ITU-T Rec. X.411 | ISO/IEC 10021-4 Message Handling Systems (MHS): Message Transfer System: Abstract Service Definition and Procedures
ITU-T Rec. X.413 | ISO/IEC 10021-5 Message Handling Systems (MHS): Message store - Abstract service definition
ITU-T Rec. X.419 | ISO/IEC 10021-6 Message Handling Systems (MHS): Protocol specifications
ITU-T Rec. X.420 | ISO/IEC 10021-7 Message Handling Systems (MHS): Interpersonal Messaging System
ITU-T Rec. X.435 | ISO/IEC 10021-9 Message Handling Systems (MHS): Electronic data interchange messaging system
ITU-T Rec. X.412 | ISO/IEC 10021-10 Message Handling Systems (MHS): MHS routing
ITU-T Rec. X.404 | ISO/IEC 10021-11 Message Handling Systems (MHS): MHS routing - Guide for messaging systems managers

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