XCMD

XCMD（Extended Command）

XCMD（エックスコマンド）は、「Extended Command」の略称であり、かつてApple Computerが提供していた画期的なオーサリングツール、HyperCardの機能を拡張するために開発された特殊なプログラムモジュールです。その生みの親は、HyperCard自体の主要開発者でもある著名なプログラマ、ビル・アトキンソン氏です。

開発の背景

HyperCardは、カード型のインターフェースを持つデータベース機能と、簡易的なプログラミング言語であるHyperTalkを組み合わせることで、非プログラマでも容易にアプリケーションを作成できることを目指したツールでした。しかし、その設計思想から、セキュリティや安定性を重視し、オペレーティングシステム（OS）のより深い機能への直接的なアクセスや、ファイルシステムへの高度な操作など、一部の機能が意図的に制限されていました。これにより、HyperCardだけでは実現できない、より高度で専門的な処理が必要とされる場面が少なくありませんでした。

XCMDは、このようなHyperCardの機能的なギャップを埋めるために考案されました。HyperCardのHyperTalkスクリプトから呼び出されることで、OSレベルの機能を利用したり、特殊なハードウェアを制御したり、複雑な計算処理を実行したりするなど、HyperCard単体では不可能だった多様な機能を追加することを可能にしました。

機能と技術的側面

XCMDは、HyperCardのスタックファイル（HyperCardのドキュメント形式）内に「リソース」という特殊な形式で格納されました。これにより、XCMDを内蔵したスタックを配布するだけで、受け取ったユーザーは追加のインストール作業なしに拡張機能を利用することができました。

XCMDの開発には、HyperCardが提供するインターフェース仕様に準拠する必要がありましたが、その本体のロジック部分はPascal、C言語、あるいはBASICといった、当時広く使われていたコンパイル言語で記述することが可能でした。これにより、これらの言語が得意とする高速な処理能力や、低レベルな操作性をHyperCard環境に取り込むことができたのです。開発者は、コンパイル済みのXCMDリソースをHyperCardスタックに組み込むことで、強力なカスタムコマンドを作成しました。

XFCNとの違い

XCMDと非常によく似たHyperCardの拡張機能に「XFCN（エックスファンクション）」があります。XFCNは「Extended Function」の略で、外部関数とも呼ばれます。XCMDがHyperTalkの「コマンド」として、特定の処理を実行するために呼び出されるのに対し、XFCNはHyperTalkの「関数」として呼び出され、常に何らかの「値」を返すという点が最大の違いです。例えば、XCMDが「ファイルをコピーする」といった動作を実行するのに対し、XFCNは「指定したファイルのサイズを返す」といった情報の取得に使われます。値を返すか否かという役割の違いはありますが、技術的な実装方法やHyperCardへの組み込み方法、開発に使用できる言語などはXCMDとXFCNで共通しており、両者はHyperCardの拡張機能として相互補完的な関係にありました。

歴史と現状

HyperCardは1987年の登場以来、Macintoshユーザーを中心に爆発的な人気を博し、多数のスタックが開発・公開されました。HyperCardの普及に伴い、その機能を拡張するためのXCMDやXFCNも非常に活発に開発され、ファイル操作、通信機能、マルチメディア処理、さらには特定のハードウェア制御に至るまで、多岐にわたる機能を持った拡張がサードパーティや個人の開発者によって生み出されました。これらの拡張機能の存在が、HyperCardを単なる情報管理ツールに留まらず、簡易的なソフトウェア開発環境としての地位を確立する一助となりました。

しかし、HyperCard自体がMac OS X（現在のmacOS）の登場以降、その位置づけが変わり、最終的に開発が停止されたため、XCMDやXFCNが新たな環境で積極的に利用される機会はほとんどなくなりました。かつてはHyperCard開発者にとって必須の知識とも言える存在でしたが、現在では歴史的な技術要素となっています。

例外的に、クロスプラットフォーム開発ツールであるREALbasic（現在の名称はXojo）は、かつてのHyperCardユーザーや資産を考慮し、その言語の拡張機能としてXCMDおよびXFCNのサポートを継続していました。しかし、全体的な技術トレンドの変化により、現在ではこれらの形式で新規に機能が開発されることは稀です。

関連項目として、XCMDがその存在意義を大きく依存していたオーサリングツール「HyperCard」が挙げられます。

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