BIOMEGA

『BIOMEGA』

弐瓶勉によって描かれた日本のSF漫画作品、『BIOMEGA』（バイオメガ）。当初は講談社の『週刊ヤングマガジン』で連載が始まりましたが、後に集英社の『ウルトラジャンプ』へ掲載誌を移し、2009年まで連載されました。単行本は全6巻で完結しており、掲載誌移籍の経緯から、第1巻のみ講談社版と集英社版が存在します。

絶望に染まる未来世界

物語の舞台は西暦3005年。人類は七世紀ぶりに火星への有人探査を成功させますが、廃墟と化したかつての入植地で発見されたのは、一人の女性と、そして恐るべき未知の病原体「N5Sウイルス」でした。地球へ帰還した探査船は軌道上で壊滅し、乗員たちの遺体はN5Sウイルスに侵されたまま、地表へと病原体を飛散させ始めます。

ウイルスの蔓延は約一日で世界を生物災害「ドローン禍」へと変え、感染者は理性を失った「ドローン」と化してしまいます。この混沌の中、洋上の巨大人工島「9JO」に、巨大企業「東亜重工」の工作員、庚造一が派遣されます。彼の任務は、N5Sウイルスへの適応能力を持つとされる少女、イオン・グリーンを保護すること。しかし、敵対組織「技術文化遺産復興財団」（DRF）によってイオンは拉致されてしまいます。造一はイオンを巡る戦いに身を投じる一方、DRFの上位機関による人類全体の運命に関わる密かな計画が進められていました。

主要な登場人物たち

東亜重工

庚造一（かのえ ぞういち）：驚異的な身体能力を持つ、東亜重工製合成人間の男性型エージェント。パートナーのAI、カノエ・フユと共にDRFの野望を阻止する使命を帯びています。冷静沈着に任務を遂行しますが、他者への深い情や、無力さへの憤りを見せる人間的な一面も持ち合わせています。
カノエ・フユ：造一のパートナーである女性型AI。実体を持たず、造一の乗る重二輪に搭載されています。優れた情報収集能力で造一をサポートし、第三者とのコミュニケーションには立体映像や脳同調接続を用います。AIながら人間と変わらない精神を持ち、造一を諫めることもあります。
壬二銖（みずのえ にしゅ）：東亜重工製女性型合成人間。庚造一を「兄さん」と呼ぶ後輩で、パートナーのAI、ミズノエ・シンと共に活動します。造一よりも過激な性格ですが、人間味ある一面も見せます。
丁五宇（ひのと ごう）：東亜重工製男性型合成人間。番外編「BIOMEGA interlink」に登場。DRFの追撃を受け、パートナーのAI、ヒノト・タイラを脱出させ自らは犠牲となります。
ヒノト・タイラ：五宇のパートナーAI。大破した重二輪からモジュールを脱出させ、後にコズロフや壬班と合流します。

技術文化遺産復興財団（DRF）

ニアルディ：DRF総主。若い外見ですが、高い高齢者とされます。物体や生物の思念を感じ取る力に加え、他者の意識を乗っ取る思念束の能力を持ちます。独自の信念に基づき、人類全体の変革を企てています。

公衆衛生局（PHS）

ナレイン将軍：DRFの下部機構PHSの指導者。かつてはニアルディと親しい関係でしたが、人類改変計画を巡る考え方の違いから対立しています。対象を捻り切る念動力を行使し、後にドローンを人間に戻す神がかり的な能力も獲得します。
カーダル・スピンダル：DRFの巡回査察員。強力な念動力で、自身を繊維で覆ったり、繊維を飛ばして攻撃します。造一と幾度となく対峙します。
ヒグイデ：巡回査察員。鉈と分銅鎖を武器とし、巡回査察員の中でもトップクラスの戦闘能力を持ちます。物語後半では異世界「復物主の世界」へと転送され、救世主として扱われます。

地球の人々

イオン・グリーン：N5Sウイルス適応者とされる少女。驚異的な再生能力を持ちます。その正体は、約180年前に閉鎖された研究所の所員であり、不老不死者であることが後に判明します。物語の中心となる存在です。
コズロフ・Л（レーフヴィチ）・グレブネフ：イオンの保護者である巨大な熊。人語を解し、道具を操る常識的な性格。DRF創設者レーフ・グレブネフのクローン脳を移植された存在で、彼自身も半ば不老不死です。
レーフ・グリゴリエヴィチ・グレブネフ：DRFの元総主。不老不死研究の第一人者。火星へ旅立ち、リルオードと再会したとされています。

復物主の世界

物語は、巨大な「復物主」の発芽により、地球全体が変容し、登場人物たちが数千年後の未来にあたる異次元空間「復物主の世界」へ転送される壮大な展開を迎えます。この世界は、直径約100km、全長約48億kmに及ぶ巨大な紐状の構造を持ち、独自の生態系と文化圏が形成されています。

復物主の住人：復物主と同じ素材の体組織を持ち、昆虫のような関節を持つなど、地球の人間とは大きく異なる外見をしていますが、自身らを人間と認識しています。
フニペーロ：復物主の子宮から生まれた存在。ニアルディと似た能力を持ち、造一と共に行動し成長していきます。
重機：復物主の世界に生息する巨大な生物。復物主の体組織で構成され、人間を捕食することもあれば、食料にもなります。
イミグル族：数千年前に地球から大陸繋留索へ避難した人々の末裔。地球の人間と近い外見を持ち、遺伝的多様性を保つため外部からの男性との交配の風習があります。

この世界でもDRFは新生DRFとして存在し、造一たちはフニペーロやコズロフ、そして転送されてきたヒグイデらと協力・または対立しながら、ニアルディとの最終決戦に臨みます。

独特の技術と世界観

本作には、東亜重工製の合成人間や、彼らが搭乗する巨大タイヤの重二輪、強力な弾体加速装置といったSF的なガジェットが多数登場します。また、合成人間を育成するための仮想空間「識臣」、N5Sウイルスと関連する「逆相写像重合体」など、独自の用語や設定が作品世界を構築しています。特に、有機的なものと無機的なものが混在し、グロテスクかつ荘厳な描写が展開される復物主の世界は、作者弐瓶勉の真骨頂と言えます。

『BIOMEGA』は、そのハードな描写と予測不能なストーリー展開、そして圧倒的なスケール感で読者を魅了する、ディストピアSFの傑作です。作者の他作品『BLAME!』や『シドニアの騎士』とも企業名などで繋がりが見られ、広大な世界観の一部を成しています。

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