V850

V850

V850は、日本の電機メーカーであるNEC（後にルネサスエレクトロニクス）が開発・製造した、組み込みシステム向けの32ビットRISCマイクロコントローラ（MCU）シリーズです。高効率なRISC（Reduced Instruction Set Computer）アーキテクチャを採用し、様々な電子機器の制御に利用されました。

技術概要

V850シリーズの根幹となるのは、32ビット幅の高性能RISC CPUコアです。このコアアーキテクチャは、後継となるRH850シリーズにも引き継がれ、ルネサスの車載向けMCUの基盤となっています。初期の派生型としてV850ES、V850Eなどがあり、かつては組み込みLinuxであるμClinuxのサポート対象ともなっていましたが、時期を経てそのサポートは終了しています。

開発環境としては、広く利用されているGNUコンパイラコレクションをはじめ、IARシステムズやGreen Hills Softwareなどの商用コンパイラ、ウインドリバー・システムズのDiabコンパイラなどが利用可能でした。また、リバースエンジニアリングツールとして知られるIDA Pro向けのV850対応フリーウェアプラグインも提供されていました。

歴史と進化

V850シリーズの歴史は、1994年の最初の製品リリースに始まります。これは、1991年に登場したV810プロセッサを基盤として開発されました。1990年代、V850はNECのVシリーズ全体の中で、組み込み用途としては中程度の性能を持つCPUとして位置づけられました。登場当初は、DVDドライブやHDDドライブといったAV機器や情報機器のモーター駆動用制御マイコンとしての採用が多く見られました。

1996年にリリースされたSoC（System-on-a-Chip）向けのV850Eは、エアコンなどの家庭用電化製品にも採用範囲を広げました。特にカーオーディオ分野での成功を収めたことから、V850シリーズは次第に自動車関連用途への比重を高めていきます。しかし、2000年代初頭にはまだ車載用途以外での採用例も存在しており、例えばNECやソニーの携帯電話にもV850Eが搭載された実績があります。

自動車分野への明確な方向転換を示す製品も登場します。1999年発売のV850/SB1は、NECが策定したカーオーディオ向けの通信規格であるIEBusを内蔵し、シリーズ内で特にカーオーディオ向けに特化して設計されました。さらに2000年に発売されたV850/SF1では、自動車用ネットワークの標準規格であるCAN Bus（Controller Area Network）を内蔵したことで、この頃からV850シリーズは自動車産業を主要なターゲットとするようになりました。

技術の進化も継続されました。2002年には、より微細な0.25μmプロセスで製造された第2世代品が登場。2005年には、0.15μmプロセスを採用し、製造時にプログラムを書き込むマスクROMに代わり、ユーザーによる書き換えが可能なフラッシュメモリを全ての製品に搭載した「オールフラッシュマイコン」を打ち出した第3世代品がリリースされました。

ルネサスエレクトロニクスとして統合・再編された後の2010年には、次世代の車載マイコンに求められる要件に対応した第4世代品が登場します。90nmプロセスで製造されたこの世代は、車載ネットワーク規格であるFlexRay、車載ソフトウェアプラットフォームのAUTOSAR、そして機能安全規格（IEC 61508 SIL 3、ISO 26262 ASIL D）といった最新の技術・標準規格をサポートしました。これにより、V850シリーズは多岐にわたるファミリー展開を通じて、車載市場における支配的な地位を確立するに至ります。

そして2012年、新生ルネサス体制のもと、V850シリーズで培われた技術と実績は、新たな世代の車載用マイクロコントローラであるRH850シリーズへと正式に引き継がれました。

主な用途

かつてV850コアは、NECやソニーオプティアークによって製造された多くのDVDドライブに搭載されていました。しかし、歴史の変遷と共にその主要な活躍の場は自動車産業へと移りました。現在（2010年代以降）のV850製品群は、主に車載用途に特化しており、車両の様々な制御システム、例えばモーター制御専用のMCUと連携して利用されることもあります。

総合的に見て、V850シリーズは自動車産業における広範な用途で活用されました。現在、ルネサスエレクトロニクスからは、V850を後継する車載用MCUとしてRH850シリーズが提供されており、引き続き自動車の進化を支えています。

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