おいでなさい

おいでなさい（来い来い拳）

「おいでなさい」または「来い来い拳」として知られるこの遊びは、日本の豊かな伝統芸能である拳遊びの一類型です。特に座敷などで行われることが多く、複数人で楽しむ宴席や集まりに彩りを添える遊びとして親しまれてきました。

遊びの基本構造

この遊びの根幹をなすのは、いわゆる「三すくみ」の関係性です。具体的には「狐」「猟師」「庄屋」という三つの役割が登場し、それぞれの間に定められた優劣関係に基づいて勝敗が決まります。この点は、同じく日本の代表的な拳遊びである「狐拳」と共通する最も重要な特徴です。

三すくみの関係は以下の通りです。

狐：聡明さや変化の能力を持つとされる狐は、威厳ある庄屋を化かす、あるいは翻弄すると考えられています。したがって、「狐は庄屋に勝つ」とされます。
庄屋：村や地域を治める庄屋は、獣を捕らえる猟師を支配する存在と見なされます。そのため、「庄屋は猟師に勝つ」とされています。
* 猟師：鉄砲などを用いて獣を狩る猟師は、素早いが身体能力で劣る狐を捕獲することができます。したがって、「猟師は狐に勝つ」とされます。

それぞれの役割は、参加者が特定のポーズや動作（狐拳では、狐は両手を額に当てて耳を表現するなど）で表現され、出し合った役割に応じて勝敗が決定します。例えば、ある人が「狐」を出し、別の人が「庄屋」を出した場合、「狐」を出した人の勝利となります。

進行と作法

「おいでなさい」には、勝敗が決まった後に特有の儀式的なやり取りが存在します。勝者は、敗者に向かって「おいでなさい」あるいは「来い来い来い」と声に出しながら、文字通り相手を手招きする仕草を三度繰り返します。これは、勝者が敗者を自分の側へ招き寄せる、あるいは従わせる様子を表現する動作です。

一方、敗者は、勝者の手招きに応じる形で、「ヘイヘイヘイ」と声に出しながら、丁重にお辞儀を三度行います。このお辞儀は、敗者が勝者に対して敬意を示し、従う姿勢を表すものと考えられます。

この一連のやり取りが、この遊びの名称の由来となり、また他の拳遊びにはあまり見られないユニークな特徴となっています。遊びは、多くの場合、大勢の参加者が向かい合わせに座って行われます。勝負を繰り返し、「三人抜き」や「五人抜き」といった事前に定めた目標人数を連続で打ち負かすまで続ける、という形で進行することが一般的です。これにより、ゲームに集中力と目標達成の要素が加わり、より熱中して楽しめるようになります。

掛け声

「おいでなさい」を遊ぶ際には、独特のリズムを持つ掛け声が用いられることがあります。これは、ゲームの開始や勝負の区切りなどを盛り上げ、参加者全体の一体感を高める効果があります。例えば、勝負を始める前や、次の勝負に移る際の掛け声として、「ヨイヨイヨイ来た、ヨイサノ、アイコで、ヨヤサノオイデナサイ」といったフレーズが唱えられることがあります。このような掛け声は、単なる合図としてだけでなく、遊びの雰囲気を醸成し、参加者を伝統的な世界観へと引き込む役割も果たしています。

特徴と魅力

「おいでなさい」は、単純な三すくみのルールに加え、勝敗後の儀式的なやり取り、そして独特の掛け声が組み合わさることで成立しています。大人数で向かい合って行う形式は、参加者間のコミュニケーションを促進し、共に笑い、楽しむ一体感を生み出します。身体的な動作（手招き、お辞儀）と音声（掛け声、勝敗後の応答）が一体となったこの遊びは、視覚的、聴覚的にも楽しめる要素を持っており、日本の伝統的な座敷遊びの魅力の一つを示していると言えるでしょう。現代においては、地域や世代によって遊び方や名称に若干の違いが見られる可能性もありますが、基本的な構造と楽しさは受け継がれています。

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