くるみ割り

くるみ割り：歴史と多様な世界

くるみ割りとは、堅い胡桃の殻を割るための道具です。最も一般的な形状は、やっとこ状の形状をしており、てこの原理を利用して胡桃を割ります。しかし、くるみ割りの種類は多岐に渡ります。ねじを回して圧力を加える万力型や、刃が付いた和胡桃用のものなど、様々な形状、材質のものが存在します。

さらに、くるみ割りには、工芸品としての側面も持ちます。特に、木製の人形型のくるみ割り人形は、ドイツの伝統的な工芸品として親しまれており、クリスマスの装飾としても人気です。

くるみ割りの歴史

人類が胡桃を割る道具を用いた歴史は古く、先史時代には石器を用いていたと考えられています。アメリカやヨーロッパ各地からは、4000年から8000年前のカップストーンと呼ばれる、ナッツを割るための石器が出土しています。日本でも、縄文時代中期に胡桃を割るのに使われたと推測される凹石が発見されています。

金属製のくるみ割りは紀元前3～4世紀に遡り、てこの原理を用いたV字型のものが存在しました。フランスの博物館には13世紀の鉄製、14世紀～15世紀の真鍮製のくるみ割りが収蔵されています。初期の金属製くるみ割りは、金属を打って作られていましたが、後に鋳型を用いるようになりました。イングランドでは真鍮製、アメリカでは鋳鉄製のものが多く作られました。

木製のくるみ割りは、当初は革で繋いだ2つの木片というシンプルなものでした。15世紀から16世紀にかけて、フランスとイングランドでは精巧な彫刻が施されたくるみ割りが制作され、特にツゲ材が好んで用いられました。18世紀から19世紀にかけては、オーストリア、スイス、イタリアでも同様のものが作られました。万力型のくるみ割りは17世紀から登場しました。

くるみ割り人形：ドイツの伝統工芸

くるみ割り人形は、ドイツの伝統的な木工芸品です。テューリンゲン州ゾンネンベルクやエルツ山地のザイフェン村などで制作され、クリスマスの代表的な装飾品として愛されています。直立した人形の形をしており、顎を開閉させて胡桃を挟み込み、背中のレバーを押して割る仕組みです。

王様や兵士、警官、サンタクロースなど、様々な意匠のものが作られており、ドイツではクリスマスツリーに金紙を包んだ胡桃を飾る習慣と関連しています。16世紀にはすでに人の形をしたくるみ割りを贈る習慣があり、1870年以降は、ザイフェンのヴィルヘルム・フリードリッヒ・フュヒトナーがろくろ技術を用いてくるみ割り人形を作り始めました。彼は「エルツ山地のくるみ割り人形の父」と呼ばれています。

くるみ割り人形が広く知られるようになったのは、E.T.A.ホフマンの童話『くるみ割り人形とねずみの王様』、およびそれを原作とするチャイコフスキーのバレエ『くるみ割り人形』がきっかけです。また、19世紀には政治家を模した風刺漫画の題材にもなりました。

現在でも、ドイツのクリスマスマーケットでは巨大なくるみ割り人形が飾られることがあり、世界最大のものはエルツ山地のノイハウゼンにあります。

くるみ割りの多様な姿

一口にくるみ割りと言っても、その歴史と多様性は驚くべきものです。石器時代の簡素な道具から、精巧な彫刻が施された工芸品、そしてクリスマスの象徴としてのくるみ割り人形まで、くるみ割りは時代や文化、人々の工夫と創造性を反映する存在と言えるでしょう。その歴史と多様な形態を知ることで、私たちの身の回りにある、一見シンプルな道具にも秘められた奥深さを改めて感じることができるのではないでしょうか。

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