はくおう:多用途に活躍する貨客船
「はくおう」は、高速マリン・トランスポートが保有し、
防衛省がチャーターする
貨客船です。元々は新日本海
フェリーが運航していたカー
フェリー「すずらん(初代)」で、同型の新造船就航に伴い定期運用を終えた後、
防衛省によってチャーターされました。船名は、新日本海
フェリーのロゴにもある白いカモメ「白鴎」に由来しています。
自衛隊が使用する船としては2代目となります。
概要
「はくおう」は、新日本海
フェリーが高速長距離
フェリーとして建造した「すずらん」をチャーターし運用しています。就航当時は、ディーゼルエンジンの大型商船として世界最速を誇るなど、高い高速航行性能を有していました。しかし、同社による2代目「すずらん」の投入に伴い、
2012年に定期運用を終了。その後、
自衛隊や
在日米軍の輸送を目的に
防衛省がチャーターし、船名が変更されました。
船体
「はくおう」は、全長200m未満の通常の船型で、巨大船規制を受けにくいのが特徴です。トラック122台、乗用車80台の積載能力を持ち、既存の
海上自衛隊輸送艦である「おおすみ型
輸送艦」よりも高い輸送力を誇ります。民間船時代には、遠隔地から24時間以内に北海道を往復できる性能が求められ、航海速力29.4ノットという高速性能を実現していました。
外観は定期船時代と大きな変化はありませんが、塗色は黒白のツートーンに変更され、煙突の新日本海
フェリーのファンネルマークは削除されました。また、2層の車両甲板の間には、定期船時代にはなかったスロープが設置されています。
船歴
定期船時代
「はくおう」は、
1995年3月に石川島播磨重工で竣工し、
1996年6月11日に「すずらん(初代)」として就航しました。当時、日本最速の
フェリーとして、小樽~敦賀間を大幅に短縮しました。しかし、全長を200m以内に抑えた結果、船体幅が狭く、居住性に課題がありました。
その後、2004年に登場した「はまなす」「
あかしあ」では、巨大船規制を甘受し船体幅を拡大。プライベートテラス付きの客室を増やし、居住性を向上させました。また、最新型のポッド推進器を採用し、高速性も確保しました。
「すずらん」は、就航から15年以上が経過し、老朽化が進んだため、2代目「すずらん」と入れ替わる形で、
2012年6月19日に運用を終了しました。
防衛省チャーター後の運用
フェリーとしての運用終了後、「はくおう」はしばしば
防衛省にチャーターされ、物資輸送などに従事しました。
2012年12月には、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えた部隊輸送のため、石垣島へ運航されました。
自衛隊は2014年度から「はくおう」と「ナッチャンWorld」の試験運用を開始し、2015年からは
PFI方式による運用を行っています。船員は
予備自衛官を中心に構成され、通常の訓練や整備は新日本海
フェリーに委託しています。
2016年3月には、高速マリン・トランスポートが本船を保有し、
防衛省と10年間の輸送使用契約を結びました。
「はくおう」は、
災害派遣においても活躍しており、2016年の熊本地震では、被災地支援のため陸上
自衛隊員らを輸送し、ホテルシップとしても利用されました。また、2018年の豪雨や地震、2020年の新型コロナウイルス感染症など、様々な災害に対応しています。2024年1月の能登半島地震では、避難者の受け入れ施設としても活用されました。
防衛省では、
病院船の保有計画がありましたが、建造費用や維持費の問題から断念。その代わりに、既存の民間輸送船に
野外手術システムを搭載して対応する方針となりました。
2014年11月25日、「はくおう」に
日本赤十字社のdERUを展開し、実証訓練を実施した結果、民間
フェリーによる臨時医療施設としての有用性が確認されました。
まとめ
「はくおう」は、高速性能と高い輸送能力を兼ね備えた多機能な
貨客船です。平時には
自衛隊や
在日米軍の輸送を担い、有事の際には災害支援や
病院船としての役割も期待されています。その柔軟な運用能力は、今後の日本の防衛や災害対策において、重要な役割を果たすでしょう。