ひさき

宇宙望遠鏡「ひさき」（SPRINT-A）

「ひさき」とも呼ばれる計画名SPRINT-A（Small scientific satellite Platform for Rapid Investigation and Test - A）は、東京大学および東北大学が中心となって進められた惑星観測専用の宇宙望遠鏡です。このプロジェクトは、宇宙航空研究開発機構（JAXA）が開発したイプシロンロケットを用いて打ち上げられる、小型科学衛星SPRINTシリーズの最初の機体です。特に注目すべきは、太陽系内の惑星を観測するために設計された人工衛星としては、世界初の試みである点です。開発および製造は日本電気（NEC）が担当しました。

最初の打ち上げ予定日は2013年8月22日でしたが、数度の延期を経て、最終的に2013年9月14日に成功裏に打ち上げられました。その後、約1時間で無事に軌道に投入され、JAXAからは「ひさき」という愛称が付けられました。この名前は、太陽（ひ）の先（さき）や、内之浦に由来する地名「火崎」から取られています。望遠鏡は3か月後の11月19日に分光観測を実施し、定常観測運用が始まることを確認しました。

目的と観測対象

「ひさき」の主な目的は、宇宙空間からの大気観測です。他の惑星（具体的には水星、金星、火星、木星、土星）における大気やプラズマの動態、そして宇宙空間への大気の流出や、磁気圏の変遷を継続的かつ集中的に観測することです。これにより、惑星の大気の状態や変化を詳細に把握することが可能になります。

この衛星は口径20cmの望遠鏡を搭載しており、特に紫外線領域における観測に特化しています。地上の望遠鏡では大気の影響を受けてしまうため、極端紫外線の観測が難しいのですが、宇宙から観測することでこの問題をクリアしています。すでに運用されているハッブル[[宇宙望遠鏡]]などは、さまざまな天体観測に使用されるため、その観測時間が制限されます。「ひさき」は特定の惑星に特化することで、複数の惑星を同時に継続的に観測することができます。

具体的な観測対象には、木星のオーロラやその衛星イオの大気、水星の大気、さらには金星や火星の大気の宇宙空間への流出も含まれます。さらに、金星や土星のオーロラの観測も行われました。

技術的な特徴

「ひさき」の大きさは1m×1m×4m（展開後は1m×約7m×4m）で、重量は335kgです。また、高度約950kmから1150kmの地球周回楕円軌道で観測データを収集します。紫外線領域での観測は、惑星の下層大気を捉える上で非常に有効であるとされており、その意味でも「ひさき」の技術的特性は非常に重要です。開発費用は数十億円に及び、研究段階では無人宇宙実験システム研究開発機構（USEF）の小型地球観測衛星ASNAROシリーズとの共同研究が行われ、NEC製の標準衛星バス「NEXTAR」が採用されました。

さらに、衛星にはオプション実験機「NESSIE」が搭載されており、高効率薄膜太陽電池セルとリチウムイオンキャパシタの宇宙実証実験を行っています。

結論

「ひさき」は、宇宙観測の新しい可能性を切り開いたプロジェクトであり、2023年12月8日に経年劣化により運用を停止するまで、多くの貴重なデータを収集し続けました。今後の惑星観測においても、その技術的な成果と観測データは、研究の基盤となることでしょう。

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