ホンチ

ホンチ（フンチ）― 蜘蛛の相撲、そして地域文化

はじめに

神奈川県横浜市・川崎市、そして千葉県富津市。これらの地域では、古くから独特の伝統遊びが受け継がれています。それが「ホンチ」と「フンチ」です。どちらも、ネコハエトリグモのオス同士を戦わせる昆虫相撲の一種で、地域によって呼び名が違うものの、その歴史と文化は深く繋がっています。本稿では、ホンチとフンチの歴史、盛衰、そして現代における保存活動について詳しく解説します。

ホンチ：横浜・川崎の伝統

横浜市と川崎市で親しまれるホンチは、江戸時代には「蜘蛛合わせ」として知られていました。賭けが行われることもあったため、幕府によって禁止された時期もありました。大正時代には、漁師たちの間で流行し、1924年頃からは子供たちの間で広く親しまれるようになりました。第二次世界大戦後も人気は続き、1960年頃まで熱狂的な人気を誇りました。

ホンチの試合は、マッチ箱に似た小さな木箱「ホンチ箱」で行われます。このホンチ箱は、木型職人によって量産され、駄菓子屋などで販売されていました。高度経済成長期を過ぎ、子供たちの遊び方が変化すると、ホンチの人気は衰え始めました。

しかし、ホンチの伝統を守ろうという動きもあり、1983年には「横浜ホンチ保存会」が発足。毎年大会を開催し、伝統を継承する活動が続けられています。2019年には、横浜市の「地域無形民俗文化財」にも登録され、その文化的価値が改めて認められました。大会で使用されたクモは、自然に返すことが基本となっています。これは、次の世代の繁殖を願う、遊びの奥深さを感じさせます。

フンチ：富津市の伝統

富津市で伝わるフンチも、江戸時代から続く伝統遊びです。ホンチと同様に、第二次世界大戦後には子供たちの間で爆発的な人気を博し、駄菓子屋で販売されるクモ箱は年間60万個も生産されるほどでした。しかし、高度経済成長期以降、子供たちの遊び方の変化とともに、フンチは衰退していきました。

1999年、地元の愛好家によって「富津フンチ愛好会」が結成され、伝統の継承に向けた活動が始まりました。現在では、10代から80代まで幅広い年齢層の会員が60名以上参加し、毎年5月の大型連休には横綱決定戦を開催しています。このイベントは、地域住民やメディアにも注目され、町おこしにも貢献する一大イベントとなっています。

フンチは、横浜のホンチとは異なり、まだ無形民俗文化財の指定を受けていませんが、富津フンチ愛好会は登録を目指し、活動を続けています。

現代におけるホンチ・フンチ

ホンチとフンチは、単なる子供たちの遊びではありません。江戸時代から続く歴史を持ち、地域住民の生活や文化に深く根付いた伝統芸能です。近年は、地域活性化の観点からも注目を集め、その伝統を守り、未来へと繋いでいく取り組みが続けられています。ホンチとフンチを通して、地域独特の文化や歴史に触れることは、現代社会において貴重な体験と言えるでしょう。

まとめ

ホンチとフンチは、小さなクモを使った遊びですが、その背景には、長い歴史と人々の情熱が息づいています。地域住民の努力と、文化財としての登録など、伝統を守り、未来へと繋ぐ試みは、日本の文化の豊かさを感じさせてくれます。これらの伝統芸能が、これからも多くの人に親しまれ、未来へと受け継がれていくことを願ってやみません。

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