アクアスキュータム

アクアスキュータム：防水コートから世界へ羽ばたいた英国ブランドの物語

1851年、ロンドンのリージェント・ストリートに創業したアクアスキュータムは、その名のとおり「防水」を意味するブランド名で知られる高級ファッションブランドです。創業者のジョン・エマリーは仕立て職人として、革新的な防水生地を使ったコートを世に送り出しました。

ブランドの歩み：クリミア戦争から王室御用達へ

アクアスキュータムの防水コートは、クリミア戦争でイギリス軍将校に採用され、高い機能性と品質から瞬く間に人気を博しました。その後、下士官兵にも支給されるようになり、ブランドの知名度は飛躍的に向上します。第一次世界大戦では、塹壕で戦う兵士たちを寒さと雨から守ったことから、アクアスキュータムのコート、特にトレンチコートは、その耐久性と実用性を象徴する存在となりました。

19世紀末には、皇太子（後のエドワード7世）が同社のコートを愛用したのをきっかけに、王室御用達となり、その地位はブランドの価値を大きく高めました。20世紀に入ると、婦人服部門も設立し、撥水性のケープやコートは婦人参政権運動家にも広く受け入れられました。

製品：上質な素材と伝統の技

アクアスキュータムの製品は、コートを筆頭にスーツ、シャツ、ネクタイ、バッグ、革靴など多岐に渡ります。その多くに、ブランドの象徴である「クラブチェック」と呼ばれるハウスチェックがあしらわれています。特にトレンチコートは、世界で初めて防水ウールを開発した同社が誇る代表作であり、時代を超えて愛される名品です。

「キングスウェイ」「キングスゲート」「プリンスゲート」など、様々な型のコートが開発され、それぞれ独自の機能性とデザイン性を持ち合わせています。「サンドハースト」はイギリス陸軍士官学校に由来するモデルで、「トラベルロード」は旅行に最適な軽量でシンプルなデザインが特徴です。

生地にもこだわりが感じられます。「Aqua5」「NewAqua5」「Aqua Tech」など、綿やポリエステル、ナイロンなどを組み合わせた防水加工生地は、高い機能性と上質な風合いを両立しています。エベレスト登頂で使用された「Wyncol.D711」も有名です。

栄光と苦難：経営変遷

アクアスキュータムは、日本市場にも早くから進出し、1990年には日本のレナウンに買収されましたが、2009年にイギリス企業に譲渡、その後も経営難が続き、2012年には会社更生法に相当する手続きに入り経営破綻しました。その後、香港、中国の企業を経て、現在は中国の山東如意グループ傘下となっています。

著名人とアクアスキュータム

アクアスキュータムのコートは、英国王室をはじめ、多くの著名人に愛用されてきました。レーニエ3世、ピーター・セラーズ、ハンフリー・ボガート、ソフィア・ローレン、ケーリー・グラント、マイケル・ケインといった俳優や、ウィンストン・チャーチル、ジョン・メージャーといった政治家も、その顧客に名を連ねています。

マーガレット・サッチャー首相もアクアスキュータムのスーツを愛用し、彼女の強い意志と洗練されたスタイルを象徴する存在となりました。サッチャーのスタイリストを務めたマーガレット・キングは、「典型的なサッチャーのスーツ姿」を作り出した人物として知られています。

アクアスキュータムの現在

2012年の経営破綻後、アクアスキュータムはブランドイメージの維持に苦戦しましたが、伝統と革新を融合させた新しいコレクションを発表し、ブランドの再構築を目指しています。その品質と歴史に裏付けられた高い評価は、現在も多くの支持者によって受け継がれています。老舗ブランドならではの風格と、現代的な感性を融合させたアクアスキュータムの今後の展開に注目が集まっています。

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