アトバラ

スーダン共和国北部、壮大なナイル川と、その主要な支流であるアトバラ川が交わる地点の北東に位置する都市が、アトバラです。行政区分としてはナイル川州の州都機能を担っており、地域の政治・経済・文化の中心地としての役割を果たしています。2010年の推計によれば、その人口は約14万人に達し、スーダン国内の重要な都市の一つに数えられます。

アトバラは、その地理的な位置から、交通網における極めて重要な結節点となっています。特にスーダンの鉄道輸送において中心的な役割を担っており、紅海沿岸に位置する同国最大の港湾都市ポートスーダンと、内陸部の首都ハルツームを結ぶ基幹路線の重要な中間駅となっています。さらに、より北部へと延びるワジハルファへの支線もここから分岐しており、人々の移動や物資輸送において欠かせないハブ機能を果たしています。

産業面では、国内有数の規模を誇るセメント工場が立地しており、スーダン国内の建設需要を支える重要な供給拠点となっています。

この都市は、スーダンの近代史において、歴史的な出来事の舞台ともなりました。1898年4月8日、イギリス軍のホレイショ・キッチナー将軍率いる部隊が、スーダン再征服を目指して南下する過程で、当時この地を支配していたマフディー国家の軍隊と激突しました（アトバラの戦い）。この戦いはイギリス・エジプト連合軍の決定的な勝利に終わり、その勢いを駆ってわずか半年後に行われたオムドゥルマンの戦いでマフディー国家を完全に滅亡させ、スーダンにおけるイギリスの植民地支配（英埃領スーダン）を確立する上で極めて重要な一歩となりました。

また、アトバラはスーダンの労働運動の歴史においても特別な意味を持つ場所です。1946年、当地の鉄道労働者たちがスーダンで初めての労働組合を結成し、歴史的なストライキを実行しました。この出来事は、スーダンの労働運動史における画期的な一歩となり、その後の労働者の権利向上に大きな影響を与えました。鉄道労働者の組織力の高さと活動的な気風から、アトバラは長らくスーダンにおける共産主義思想や運動の一大拠点と見なされるようになりました。実際に、後のスーダン大統領であるモハメド・アン＝ヌメイリも、その複雑な思想遍歴の中で共産主義に傾倒していた時期には、アトバラを自身の活動拠点の一つとしていたことからも、この都市の政治的な特異性がうかがえます。

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