アフリカスイギュウ

アフリカスイギュウ（Syncerus caffer）

アフリカスイギュウは、哺乳綱偶蹄目ウシ科に属する大型の草食動物で、アフリカ大陸に広く分布しています。本種のみでアフリカスイギュウ属を構成しており、その独特な生態と特徴から、アフリカの生態系において重要な役割を担っています。

分布

アフリカスイギュウは、アンゴラ、ウガンダ、エチオピアなど、アフリカ大陸の広範囲に生息しています。サバンナ、草原、湿地、森林、山岳地帯など、様々な環境に適応しています。かつて生息していたエリトリア、ガンビア、レソトでは絶滅しましたが、エスワティニには再導入されています。

形態

体長は200〜340cm、肩高は100〜170cm、体重は300〜900kgに達する大型の動物です。全身は粗い毛で覆われており、色は黒や褐色ですが、生息地によって個体差が見られます。雌雄ともに湾曲した約1mの角を持ち、基部は隆起して頭頂部を覆っています。

分類

アフリカスイギュウには、以下の4つの亜種が認められています。

Syncerus caffer caffer (Southern savannah Buffalo)：アフリカ南部および東部に分布。
Syncerus caffer aequinoctialis (Central African savannah buffalo)：アフリカ中部（中央アフリカ共和国からスーダンにかけて）に分布。
Syncerus caffer brachyceros (West African savannah buffalo)：アフリカ西部（セネガルからカメルーンにかけて）に分布。
Syncerus caffer nanus (Forest buffalo)：アフリカ西部に分布。

近年行われた分子系統解析では、アフリカスイギュウは大きくアフリカ中部・西部とアフリカ南部・東部の2系統に分かれることが示唆されています。この2系統は約145,000〜449,000年前に分岐したと推定されています。この説に基づくと、亜種S. c. nanusはサバンナに生息する型も含むため、名称をWestern African buffaloとすることが提唱されています。

生態

アフリカスイギュウは、100頭以上の群れを形成して生活しますが、1,000〜2,000頭にもなる大規模な群れを作ることもあります。群れには明確なリーダーが存在し、角を使った勝敗によって世代交代が行われます。老齢の個体は群れから離れて単独で生活することもあります。主に薄暮時に採食を行い、昼間は水場で水浴びや泥浴びをします。野生下での寿命は16〜18年ほどですが、飼育下では25年を超える個体も確認されています。

繁殖期は特に決まっておらず、妊娠期間は約340日です。一度の出産で1頭の子どもを産み、生まれたばかりの子どもは約30kgの体重があります。気性は非常に荒く、警戒心が強いですが、生まれたばかりの子どもには手を出さないという一面も持っています。

アフリカスイギュウの天敵はライオンです。特にオスライオンは成体を狙う傾向が強く、ある調査では、ライオンの食事の62%をアフリカスイギュウが占めていました。しかし、アフリカスイギュウも反撃することがあり、ライオンを返り討ちにすることもあります。そのため、生息域に住む人々からは「黒い死神」と呼ばれ、恐れられています。

人間との関係

アフリカスイギュウは、森林伐採や農地開発、過放牧による生息地の破壊、食用の狩猟などによって生息数が減少しています。干ばつや感染症も個体数減少の要因となっています。日本では、特定動物として指定されています。

1990年代に南アフリカ共和国で口蹄疫が流行した際、群馬サファリパークは繁殖計画に協力し、飼育していた個体群から雄7頭と雌18頭を無償提供しました。これは、アフリカスイギュウの保全活動における貴重な事例です。

その他

アフリカスイギュウは、その荒々しい気性から、アフリカで最も多くのハンターを殺した動物としても知られています。これは、彼らが非常に危険な動物であることを示すと同時に、アフリカの自然の厳しさを物語っています。

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