アルザス級戦艦

アルザス級戦艦：フランス海軍の計画戦艦

アルザス級戦艦は、第二次世界大戦前、フランス海軍がドイツ海軍のZ計画に対抗するため計画した戦艦です。リシュリュー級、ガスコーニュ級に続く計画艦であり、その設計思想や武装は、当時の最新技術を反映した野心的なものでした。

外装と配置

本級の船体形状は、先行するリシュリュー級を踏襲しつつ、主砲塔配置や副砲塔、高角砲の配置に特徴が見られます。艦首には背負い式に配置された2基の四連装主砲塔が鎮座し、艦橋と主砲塔の間には副砲塔が1基配置されています。艦橋と煙突の左右には、片舷6基、計12基の連装高角砲が配置され、煙突の後部にも背負い式に2基の副砲塔が配置されています。艦尾には水上機格納庫、カタパルト、クレーンが備え付けられていました。

強大な火力：主砲

アルザス級の主砲は、リシュリュー級と同様に「1935年型 38cm（45口径）砲」を採用しました。この4連装砲塔に収められた大口径砲は、884kgの砲弾を最大仰角35度で41,700mまで到達させることが可能でした。俯仰角は仰角35度、俯角5度、旋回角度は1番・3番砲塔が左右150度、2番砲塔が156度と、広い射界を確保していました。砲身の俯仰、砲塔の旋回、装填は主に電力で行われ、補助的に人力も用いられました。発射速度は毎分2.2発でしたが、その威力は20,000m台の射距離において、当時の主要な戦艦の舷側装甲を容易に貫通するものでした。大和型を除く枢軸国戦艦では、この砲の攻撃に耐えうる防御力を有する艦は存在せず、4連装12門という圧倒的な火力により、仮想敵であるドイツ海軍の戦艦を火力面で圧倒できる設計となっていました。なお、40.6cm 3連装砲塔への換装計画も存在したことが知られています。

副砲、高角砲、その他の備砲

副砲には、軽巡洋艦エミール・ベルタンにも採用された「1935年型 15.2cm（55口径）砲」の3連装砲塔が搭載されました。54～58.8kgの砲弾を最大仰角45度で26,960mまで到達可能で、俯仰角は仰角75度、俯角8.5度でした。発射速度は毎分5～8発でした。高角砲は新設計の「1930年型 10cm（50口径）高角砲」を採用し、12基を搭載しました。この高角砲は13.5kgの砲弾を仰角45度で15,900m、14.2kgの対空榴弾を仰角80度で10,000mまで到達させることが可能でした。さらに、近接防御火器として、37mm機関砲32門、13.2mm機銃64門が計画されていました。

機関

機関配置はフランス近代戦艦の伝統であるシフト配置が採用され、インドル・スラ式重油専焼水管缶8基とパーソンズ式ギヤード・タービン4基4軸の組み合わせにより、最大出力197,000shp、計画速力30ノットを達成する計画でした。

堅牢な防御

アルザス級の防御は、ドイツのビスマルク級やイタリアのヴィットリオ・ヴェネト級を仮想敵として設計されており、高い重量配分と技術により実現されました。四連装主砲の採用によって浮いた重量を防御装甲に回すことで、舷側装甲は330mmという当時としては厚い装甲となり、船体内側に15度傾斜して配置されました。この装甲は水線上部3.3mから水線下2mまでの広い範囲を防御しました。水平防御に関しても、主甲板装甲や副砲弾薬庫上面に150mm、主砲火薬庫上面に170mmの装甲が施され、機関区上面には40mmの断片防御装甲が備えられました。また、水線下区画には液層、空層、そしてエボナイト・ムースと呼ばれる弾力性充填材が使用され、魚雷攻撃に対する防御強化が図られていました。

計画された艦艇

アルザス級戦艦は、アルザス、ノルマンディー、フランドル、ブルゴーニュの4隻が計画されましたが、完成したのはアルザスのみです。他の3隻は、第二次世界大戦の勃発やフランスの降伏によって建造が中止されました。

参考文献

『世界の艦船増刊第22集　近代戦艦史』(海人社)
『世界の艦船増刊第38集　フランス戦艦史』No.473(海人社)1993年11月号増刊
『世界の艦船増刊第22集　近代戦艦史』2008年10月号(海人社)
『世界の艦船　特集　列強最後の戦艦を比較する』No.654(海人社) 2006年2月号

もう一度検索