アンテ・パヴェリッチ

アンテ・パヴェリッチ：クロアチア独立国とウスタシャの指導者

アンテ・パヴェリッチは、20世紀前半のクロアチアにおいて、その名を歴史に刻んだ極めて複雑な人物です。弁護士や軍人としての経歴を持ち、クロアチア民族主義運動の中心的存在として、ウスタシャという組織を率いました。彼の指導の下、クロアチア独立国は成立しましたが、同時に、残虐な民族浄化政策と大規模な人権侵害によって、数えきれないほどの犠牲者を出すこととなりました。

初期の経歴と民族主義への傾倒

パヴェリッチは現在のボスニア・ヘルツェゴビナで生まれ、法律の教育を受けました。若い頃からクロアチアの独立と、周辺地域との統合を訴える熱烈な民族主義者でした。弁護士として活動後、クロアチア独立を掲げる政治団体や議会に身を置き、自治権の拡大を主張するなど、政治活動に深く関わっていきました。しかし、当時のユーゴスラビア王国において、彼の主張はなかなか受け入れられることはありませんでした。

ウスタシャの結成と亡命

民族自決を訴えるパヴェリッチは、次第に穏健な政治活動から暴力的な手段に傾倒していきます。非合法の準軍事組織「クロアチア・ドモブラン」を結成し、後に「ウスタシャ」へと改編。この組織は、徹底した民族主義を標榜し、ユーゴスラビア王国打倒を目標に、テロ活動を含む様々な手段を用いました。やがて、その活動はユーゴスラビア政府の弾圧を招き、パヴェリッチは国外に亡命することになります。イタリアのムッソリーニ政権の庇護の下、ウスタシャの軍事訓練キャンプを設立し、テロリストの養成に力を注ぎました。この訓練キャンプでは、暗殺や破壊工作といった、極めて危険な訓練が行われていたと伝えられています。

クロアチア独立国の成立と独裁体制

第二次世界大戦が始まると、ナチス・ドイツのユーゴスラビア侵攻の隙を突いて、パヴェリッチ率いるウスタシャはクロアチア独立国を建国しました。彼は「ポグラヴニク」（国家指導者）の称号を名乗り、独裁的な権力を掌握します。イタリア王族のトミスラヴ2世が国王として迎えられますが、実権はパヴェリッチが握っていました。

民族浄化と大量虐殺

クロアチア独立国は、枢軸国と協力関係を結びました。しかし、その裏では、セルビア人やユダヤ人、ロマ人など、クロアチア人以外の民族に対する残虐な弾圧と大量虐殺が繰り返されました。パヴェリッチ政権は、法律や制度を用いて、非アーリア系住民を迫害し、彼らの財産を奪い、命を奪いました。この悲劇的な歴史は、現在もなお、クロアチアと周辺諸国の人々の心に深い傷跡を残しています。

戦後と最期

第二次世界大戦終結後、パヴェリッチはオーストリアに逃亡しました。その後、イタリア、アルゼンチン、スペインと転々とした後、アルゼンチンで襲撃を受け重傷を負い、スペインで亡くなりました。ユーゴスラビア政府は、パヴェリッチに死刑判決を下していましたが、彼はその判決を受けることなく生涯を終えました。

歴史的評価

アンテ・パヴェリッチは、クロアチアの独立を願った民族主義者であると同時に、残虐な独裁者であり、大量虐殺の責任者でもあります。彼の業績は、複雑で矛盾に満ちたものであり、その評価は現在もなお、歴史家の間で議論が続いています。彼の生涯とクロアチア独立国の歴史を学ぶことは、過去の歴史から学び、二度とこのような悲劇を繰り返さないために、非常に重要なことです。

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