イノセント

イノセント：ヴィスコンティの遺作にして、愛憎劇の傑作

ルキノ・ヴィスコンティ監督の遺作として知られる映画『イノセント』(1976年)は、イタリアとフランスの合作によって生み出された、濃厚なドラマです。原作はガブリエレ・ダヌンツィオの長編小説『罪なき者』。ヴィスコンティ監督は、前作『ルートヴィヒ』の撮影中に心臓発作で倒れ、左半身麻痺の後遺症を抱えながらも、車椅子で監督業を続けました。そして、ダビング作業が完了する前に他界、本作は彼の最後の作品となりました。

映画は、裕福な家庭に生まれたトゥリオの複雑な愛憎劇を描きます。彼は妻ジュリアーナ、そして不倫相手テレーザとの間で揺れ動き、激しい葛藤に苦しみます。小説を原作としていますが、ヴィスコンティ監督と脚本家のスーゾ・チェキ・ダミーコは、原作からいくつかの変更を加えています。

原作との相違点

映画と小説の間には、いくつかの重要な相違点があります。

不倫相手: 小説では、トゥリオの不倫相手テレーザと、ジュリアーナの不倫相手フィリッポは、映画に比べて登場シーンが非常に少ないです。特にテレーザは、小説では物語の冒頭でトゥリオと別れていることになっています。また、映画ではトゥリオがフィリッポの裸体を見て嫉妬する場面がありますが、小説ではフィリッポの肉体は貧弱なものとして描写されています。
子供: ジュリアーナは、小説では自分の子に深い愛情を注いでいますが、映画ではわざと冷淡に扱っています。この描写の違いは、ジュリアーナの複雑な心情をより強調する効果を生んでいます。
* 結末: 小説では、トゥリオが子供を殺害し、その葬儀の描写で物語が終わります。しかし、映画では、トゥリオはジュリアーナとテレーザの両方に見捨てられ、絶望の淵でピストル自殺を図り、物語は幕を閉じます。この結末の違いは、映画全体のトーンに大きな影響を与えています。

修復版と日本での公開

近年、オリジナルネガの保存状態が悪化していたことが判明し、経年劣化による画質の低下が懸念されました。しかし、『山猫』と同様にジュゼッペ・ロトゥンノの監修の下、修復作業が行われ、2002年に完了しました。
日本では1979年に公開されましたが、男性器などが修正されたバージョンでした。2006年にはヴィスコンティ生誕百年祭を記念して、修復版が『イノセント【完全復元＆無修正版】』として公開されました。これにより、監督の意図をより忠実に反映した作品を鑑賞できるようになりました。

豪華キャストとスタッフ

『イノセント』は、豪華なキャストとスタッフを擁しています。監督はルキノ・ヴィスコンティ、製作はジョヴァンニ・ベルトルッチ。脚本にはスーゾ・チェキ・ダミーコ、エンリコ・メディオーリ、そしてヴィスコンティ自身も名を連ねています。音楽はフランコ・マンニーノ、撮影はパスクァリーノ・デ・サンティスが担当。ジャンカルロ・ジャンニーニ、ラウラ・アントネッリ、ジェニファー・オニールなど、実力派俳優たちが熱演を繰り広げています。

ヴィスコンティ作品の魅力

『イノセント』は、ヴィスコンティ監督作品特有の濃厚な映像美、そして登場人物たちの複雑な心理描写が魅力です。彼の晩年の作品でありながら、その芸術性は衰えることなく、むしろ深みを増しています。愛、嫉妬、裏切り、そして死。人間の深淵をえぐるような物語は、観る者の心に強い衝撃を与え、忘れ難い印象を残すでしょう。ヴィスコンティ監督の遺作として、そしてイタリア映画史に残る傑作として、『イノセント』は高く評価されています。

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