エースドライバー
1994年10月、ナムコ（現在のバンダイナムコエンターテインメント）からアーケード向けに発売されたレースゲーム、『エースドライバー』（ACE DRIVER）は、当時の体感ゲームが隆盛を極める中で、一際異彩を放つ作品として登場しました。
本作の最大の特徴は、実際のレーシングカーに近い運転感覚を再現しようとした意欲的なシステムにあります。操作系は、ステアリング、ブレーキペダル、アクセルペダル、シフトレバー、そして視点切替ボタンという、当時の標準的な構成に加え、ナムコのレースゲームとしては初めてステアリングに反力機構（フォースフィードバック）が搭載されました。これにより、コーナリング時のタイヤの抵抗感や路面の凹凸などが手に伝わり、よりリアルな操縦感覚を味わうことが可能になりました（ただし、反力機構を持たない標準的な筐体も販売されました）。反力機構搭載モデルのハンドル中央には、従来のナムコエンブレムとは異なる、赤地に白文字の「namco」ロゴがあしらわれていました。
筐体は2種類存在し、シートが左右にダイナミックに動き、BOSE社製スピーカーを搭載した豪華なDXタイプと、シートやモニター部分などを同社の『リッジレーサー2』と共有する標準的なSDタイプがありました。DXタイプにはブラウン管モニター版とプロジェクター版が存在し、どちらのタイプも2席が並んだツイン筐体です。後の続編とは異なり、ゲームプレイ中のBGMは一切なく、エンジン音やスキール音などの効果音が剥き出しになるストイックなサウンドデザインも特徴的でした。
ゲーム開始時に、操作の容易なオートマチック（AT）か、より細やかな操作が可能なマニュアル（MT）のシフト方式を選択できます。また、難易度はBEGINNER CLASS（初心者向け）、EXPERT CLASS（中級者向け）、そしてEXPERT(PRO) CLASS（上級者向け）の3段階から選択可能でした。コースは「STREAM FIELD CIRCUIT」の1種類のみですが、選択した難易度によって車の挙動が劇的に変化するのが本作のユニークな点です。BEGINNERでは強力な走行アシストが働き、誰でも完走しやすい一方、EXPERT(PRO)ではアシストがほぼ無効になり、ラフなハンドル操作やアクセルワークは即スピンにつながる非常にシビアな挙動となります。
ゲームは時間制で進行し、コース上のチェックポイントとゴールラインを通過するごとに残り時間が増加します。規定周回（3周）を時間内に走りきれないとリタイアとなりゲームオーバーです。視点は、初期状態ではリアビューとコックピットビューを切り替え可能でしたが、特定の操作を行うことでボンネット先端からの視点も選択できました。走行タイムは、コースアウトせずに走行した「緑TIME」と、コースアウトした場合の「赤TIME」に分けて集計されるという細やかな配慮もされていました。
使用できる車種は、プレイヤーが座った席によって割り当てられる4色のチームカラー（TEAM RED LIGHTNING、SCUDERIA BLUE CASTLE、YELLOW CYCLONE RACING、GREEN ISLAND MOTOR SPORTS）がありましたが、性能に違いはありませんでした。
本作は、同時期に開発が進められていた、ポリゴンレースゲームの金字塔『リッジレーサー』と同じく、ナムコの高性能アーケード基板であるSYSTEM22を使用して開発されました。開発チームは、フォーミュラカーのリアルな挙動を再現するため、実際に本物のF1マシンに試乗するという貴重な経験をしています。そこで感じた体感を既存の技術で再現することが困難だと判断した開発チームは、過去にエレメカを手掛けた遠山茂樹氏のアイデアをヒントに、シートの下にタイヤを取り付け、それを路面に見立てたローラーの上で走らせるという独創的な手法で、路面反力や振動を体感的に表現することを試みました。開発には、『ギャラクシアン3』などで知られる小山順一朗氏が設計者として携わり、遠山氏自身も監修を行っています。縁石に乗り上げた際のステアリングの振動は、あたかもシートが動いているかのような錯覚をプレイヤーに与える演出として機能しました。開発スタッフは本作を自信作として完成させたものの、小山氏が後に語ったところによると、フォーミュラカーの再現にこだわりすぎた結果、特に高難易度では、まっすぐ走るだけでも注意を要するほど操作性がシビアになりすぎた側面もあったと振り返っています。
『エースドライバー』は、海外のゲーム展示会であるAMOAショーに出展され、その革新的な技術とリアルな体感性が評価され、賞を受賞しました。
本作はシリーズ化され、1996年には続編となる『エースドライバー・ビクトリーラップ』が登場します。こちらもSYSTEM22基板を使用し、新規筐体の他、前作や『レイブレーサー』からのコンバージョンキットも提供されました。車体デザインはSF的な近未来フォルムに一新され、コースも前作の1種類から3種類に増加。高速コースやテクニカルコースが加わり、ゲーム内容が拡充されました。また、前作でBGMがなかった点は改善され、レース中は常にBGMが流れる仕様になりました。通信対戦では、3コースを連続で走って総合ポイントを競う「チャンピオンシップポイントモード」が追加されるなど、モード面も強化されています。操作性も前作のシビアさからややマイルドに調整され、より多くのプレイヤーが楽しめるバランスになりました。
その後、2008年には国外向けに『エースドライバー3 ファイナルターン』がAOUショーに出展されていますが、日本語版の存在は確認されていません。この作品では4種類の車と2種類のコースが選択でき、最大4人での対戦が可能でした。
『エースドライバー』シリーズ、特に初代作品は、リアルな走行シミュレーションと体感ゲームを融合させようとしたナムコの挑戦的な作品であり、そのピーキーな操作性やストイックな演出は、当時のプレイヤーに強い印象を残しました。
システム
本作の最大の特徴は、実際のレーシングカーに近い運転感覚を再現しようとした意欲的なシステムにあります。操作系は、ステアリング、ブレーキペダル、アクセルペダル、シフトレバー、そして視点切替ボタンという、当時の標準的な構成に加え、ナムコのレースゲームとしては初めてステアリングに反力機構（フォースフィードバック）が搭載されました。これにより、コーナリング時のタイヤの抵抗感や路面の凹凸などが手に伝わり、よりリアルな操縦感覚を味わうことが可能になりました（ただし、反力機構を持たない標準的な筐体も販売されました）。反力機構搭載モデルのハンドル中央には、従来のナムコエンブレムとは異なる、赤地に白文字の「namco」ロゴがあしらわれていました。
筐体は2種類存在し、シートが左右にダイナミックに動き、BOSE社製スピーカーを搭載した豪華なDXタイプと、シートやモニター部分などを同社の『リッジレーサー2』と共有する標準的なSDタイプがありました。DXタイプにはブラウン管モニター版とプロジェクター版が存在し、どちらのタイプも2席が並んだツイン筐体です。後の続編とは異なり、ゲームプレイ中のBGMは一切なく、エンジン音やスキール音などの効果音が剥き出しになるストイックなサウンドデザインも特徴的でした。
ゲーム開始時に、操作の容易なオートマチック（AT）か、より細やかな操作が可能なマニュアル（MT）のシフト方式を選択できます。また、難易度はBEGINNER CLASS（初心者向け）、EXPERT CLASS（中級者向け）、そしてEXPERT(PRO) CLASS（上級者向け）の3段階から選択可能でした。コースは「STREAM FIELD CIRCUIT」の1種類のみですが、選択した難易度によって車の挙動が劇的に変化するのが本作のユニークな点です。BEGINNERでは強力な走行アシストが働き、誰でも完走しやすい一方、EXPERT(PRO)ではアシストがほぼ無効になり、ラフなハンドル操作やアクセルワークは即スピンにつながる非常にシビアな挙動となります。
ゲームは時間制で進行し、コース上のチェックポイントとゴールラインを通過するごとに残り時間が増加します。規定周回（3周）を時間内に走りきれないとリタイアとなりゲームオーバーです。視点は、初期状態ではリアビューとコックピットビューを切り替え可能でしたが、特定の操作を行うことでボンネット先端からの視点も選択できました。走行タイムは、コースアウトせずに走行した「緑TIME」と、コースアウトした場合の「赤TIME」に分けて集計されるという細やかな配慮もされていました。
使用できる車種は、プレイヤーが座った席によって割り当てられる4色のチームカラー（TEAM RED LIGHTNING、SCUDERIA BLUE CASTLE、YELLOW CYCLONE RACING、GREEN ISLAND MOTOR SPORTS）がありましたが、性能に違いはありませんでした。
開発
本作は、同時期に開発が進められていた、ポリゴンレースゲームの金字塔『リッジレーサー』と同じく、ナムコの高性能アーケード基板であるSYSTEM22を使用して開発されました。開発チームは、フォーミュラカーのリアルな挙動を再現するため、実際に本物のF1マシンに試乗するという貴重な経験をしています。そこで感じた体感を既存の技術で再現することが困難だと判断した開発チームは、過去にエレメカを手掛けた遠山茂樹氏のアイデアをヒントに、シートの下にタイヤを取り付け、それを路面に見立てたローラーの上で走らせるという独創的な手法で、路面反力や振動を体感的に表現することを試みました。開発には、『ギャラクシアン3』などで知られる小山順一朗氏が設計者として携わり、遠山氏自身も監修を行っています。縁石に乗り上げた際のステアリングの振動は、あたかもシートが動いているかのような錯覚をプレイヤーに与える演出として機能しました。開発スタッフは本作を自信作として完成させたものの、小山氏が後に語ったところによると、フォーミュラカーの再現にこだわりすぎた結果、特に高難易度では、まっすぐ走るだけでも注意を要するほど操作性がシビアになりすぎた側面もあったと振り返っています。
評価
『エースドライバー』は、海外のゲーム展示会であるAMOAショーに出展され、その革新的な技術とリアルな体感性が評価され、賞を受賞しました。
シリーズ作品
本作はシリーズ化され、1996年には続編となる『エースドライバー・ビクトリーラップ』が登場します。こちらもSYSTEM22基板を使用し、新規筐体の他、前作や『レイブレーサー』からのコンバージョンキットも提供されました。車体デザインはSF的な近未来フォルムに一新され、コースも前作の1種類から3種類に増加。高速コースやテクニカルコースが加わり、ゲーム内容が拡充されました。また、前作でBGMがなかった点は改善され、レース中は常にBGMが流れる仕様になりました。通信対戦では、3コースを連続で走って総合ポイントを競う「チャンピオンシップポイントモード」が追加されるなど、モード面も強化されています。操作性も前作のシビアさからややマイルドに調整され、より多くのプレイヤーが楽しめるバランスになりました。
その後、2008年には国外向けに『エースドライバー3 ファイナルターン』がAOUショーに出展されていますが、日本語版の存在は確認されていません。この作品では4種類の車と2種類のコースが選択でき、最大4人での対戦が可能でした。
『エースドライバー』シリーズ、特に初代作品は、リアルな走行シミュレーションと体感ゲームを融合させようとしたナムコの挑戦的な作品であり、そのピーキーな操作性やストイックな演出は、当時のプレイヤーに強い印象を残しました。
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