カデンツァ

カデンツァとは

カデンツァ（イタリア語: cadenza、ドイツ語: Kadenz）は、独奏協奏曲やオペラのアリアにおいて、独奏楽器や独唱者がオーケストラの伴奏なしに、自由に即興的な演奏や歌唱を行う部分を指します。元来、カデンツァは終止形としての和音進行を意味していましたが、音楽の分野においては、独奏や独唱が技巧を披露する場として発展しました。日本では、和音進行についてはドイツ語の「カデンツ」、協奏曲やアリアの即興的な独奏・独唱部分についてはイタリア語の「カデンツァ」が使われることが多いです。

カデンツァは、協奏曲やアリアに限らず、室内楽曲やピアノ独奏曲にも見られることがあります。しかし、その多くは協奏曲に組み込まれており、独奏楽器の技巧を最大限に引き出す役割を担っています。

カデンツァの歴史

古典派の協奏曲では、通常、第1楽章のソナタ形式の終わりにカデンツァが置かれます。オーケストラによる合奏が一旦中断され、独奏楽器が自由に演奏した後、再び合奏に戻り楽章を終えます。典型的には、四六の和音で合奏が停止し、属音のトリルで独奏部分を終える形式です。この時、和声的には独奏部分全体を巨大な属和音と捉えることができます。

当初、カデンツァは独奏者が自由に即興で演奏するものでしたが、次第に楽譜に書き残され、演奏されるようになりました。一つの協奏曲に対して複数の作曲家がカデンツァを作曲することも珍しくなく、現代では演奏家がそれらの中から選んで演奏することが一般的です。

しかし、時代が下るにつれて、作曲家の中には、即興演奏によるカデンツァが協奏曲全体の質を低下させるという懸念を持つ者も現れました。そのため、協奏曲の作曲者自身がカデンツァを作曲し、楽譜に書き記すようになりました。この場合、演奏者の自由度は大きく制限されますが、楽曲全体の統一感は高まります。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番やメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲などがその例です。それでも、敢えて他のカデンツァを演奏したり、即興で演奏したりする演奏家も存在します。

カデンツァの多様性

カデンツァに対する作曲家の捉え方は様々です。古典派後期（モーツァルト、ベートーヴェン）では、作曲者の意図が強く反映され、カデンツァも完全に楽譜に書き込まれ、演奏者の自由な解釈を許さない傾向があります。一方、初期ロマン派では、演奏者と聴衆との自由な交流が尊重され、カデンツァは再び書かれなくなる傾向が見られます。特に未完の作品が多いシューベルトは、カデンツァどころか再現部すら省略している場合もあります。メンデルスゾーンは、ヴァイオリニストの助言でパガニーニ風のカデンツァをヴァイオリン協奏曲に残しましたが、ピアノ協奏曲には顕著なカデンツァは存在せず、その意義について妥協したと考えられています。

カデンツァの演奏

カデンツァは、演奏者の技巧を披露する場であると同時に、楽曲全体のバランスを考慮する必要があります。あまりに派手な技巧を凝らしすぎると協奏曲全体のバランスを崩し、逆に簡素すぎると芸術的な主張がないと批判される可能性があります。そのため、カデンツァの拍子は自由で、テンポ・ルバートも頻繁に行われることが多いです。

カデンツァは、作曲家と演奏家の個性がぶつかり合う場所であり、楽曲に新たな解釈や息吹を吹き込む重要な要素です。演奏家は、カデンツァを通して、自身の音楽性を表現するとともに、作曲家の意図を深く理解することが求められます。

関連項目

即興演奏
ギターソロ

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