終止
音楽作品において、楽想のまとまりである「楽節」などの区切りや、楽曲全体の終結を示すための重要な技法が「終止」（しゅうし）です。これは音楽における句読点のようなものであり、聴衆に一段落や終わりを感じさせる役割を担います。終止によって生じる終結感の度合いは様々で、強い解決感をもたらすものから、単なる区切りを示すものまで、多岐にわたります。
ここでは、特に断りがない限り、一般的な長調を例に、和音の機能（主和音I、属和音V、下属和音IVなど）を用いて説明します。なお、日本語の楽典で「終止形」という言葉が別の意味で使われる場合がある点には注意が必要です。
楽曲分析において頻繁に登場する、代表的な終止形をいくつかご紹介します。
全終止（Authentic Cadence）
属和音（V）またはその派生和音（属七の和音V7など）から主和音（I）へと進行して終止する形です。音楽理論において最も基本的な終止形の一つとされています。
完全終止（Perfect Authentic Cadence）
全終止のうち、特に強い終結感を持つものです。具体的には、属和音（VまたはV7）から主和音（I）へ進行し、かつ両方の和音が基本形（根音が最低音）であり、さらに旋律の最終音が主音（ド）で終わるものを指します。古典的な楽曲の終結部に最もよく用いられ、大きな段落の締めくくりにも効果的です。
不完全終止（Imperfect Authentic Cadence）
全終止の範疇に含まれますが、完全終止ほど強い終結感を持たないものです。属和音（VまたはV7）から主和音（I）へ進行する点では同じですが、どちらか一方または両方の和音が転回形であったり、旋律の最終音が主音以外で終わったりする場合を指します。ある程度の区切りは必要だが、完全に終わるのではなく、音楽を継続させたい場合に用いられます。
偽終止（Deceptive Cadence）
属和音（VまたはV7）から、主和音（I）ではなく、第VI度上の和音（VI）へと進行して終止する形です。主和音への解決を期待させておきながら、予期しない和音へ進むため、聴き手に意外な印象を与え、「偽終止」と呼ばれます。完全な終止感が得られず、むしろ浮遊感や次に続く予感を生み出します。楽曲が終わりそうで終わらない、さらなる展開を示唆したい場面でよく用いられます。
変終止（Plagal Cadence）
下属和音（IV）などから主和音（I）へと進行する終止です。属和音からの進行による全終止と比べると、より柔らかく穏やかな響きを持ちます。教会音楽において、賛美歌の最後の「アーメン」がこの和音進行で歌われることが多いことから、「アーメン終止」とも呼ばれます。十分な終止感は得られにくいですが、古典的な楽曲の最後に、完全終止に付け加える形で用いられることもあります。変格終止とも呼ばれ、完全終止、不完全終止、偽終止といった「正格終止」と対比されます。フレデリック・ショパンやクロード・ドビュッシーなどが好んで使用したことでも知られています。
半終止（Half Cadence）
属和音（V）で終止する形です。主和音へ解決しないため、完全な終止感はなく、途中の区切りを示す役割が主となります。問いかけや中断のような効果を生み出し、小さな段落の最後に多く用いられます。稀に、下属和音（IV）で終止する場合もあり、これも半終止の一種（Plagal half cadence）として扱われることがあります。
上記の主要なもの以外にも、特定の音楽様式や作曲家に見られる様々な終止形が存在します。例えば、属七の和音の第3転回形から主和音の第1転回形へ進行するEvaded cadence（回避終止）、短調における下属和音の第3音を半音下げた和音から主和音へ進行するMinor plagal cadence（完全変終止）、あるいはレオシュ・ヤナーチェクが用いたとされるMoravian cadence（モラヴィア終止：IVadd6 → I6）などがあります。また、短調におけるフリギア半終止（Phrygian half cadence）やリディア終止（Lydian cadence）、ブルゴーニュ楽派に見られるBurgundian cadence（ブルゴーニュ終止）など、特定の旋法や歴史的背景に由来するものもあります。
和音の進行自体ではなく、終止が置かれる拍の位置による分類として「女性終止（Feminine Cadence）」があります。これは、楽曲の強拍ではなく、弱拍で終止するものを指します。ポーランドの民族舞曲であるポロネーズなどに見られる特徴です。
このように、終止は単に音楽を終わらせるだけでなく、その種類や使い方によって、楽曲の構成を明確にし、様々な表情や感情を表現するための不可欠な要素となっています。
ここでは、特に断りがない限り、一般的な長調を例に、和音の機能（主和音I、属和音V、下属和音IVなど）を用いて説明します。なお、日本語の楽典で「終止形」という言葉が別の意味で使われる場合がある点には注意が必要です。
主要な終止形
楽曲分析において頻繁に登場する、代表的な終止形をいくつかご紹介します。
全終止（Authentic Cadence）
属和音（V）またはその派生和音（属七の和音V7など）から主和音（I）へと進行して終止する形です。音楽理論において最も基本的な終止形の一つとされています。
完全終止（Perfect Authentic Cadence）
全終止のうち、特に強い終結感を持つものです。具体的には、属和音（VまたはV7）から主和音（I）へ進行し、かつ両方の和音が基本形（根音が最低音）であり、さらに旋律の最終音が主音（ド）で終わるものを指します。古典的な楽曲の終結部に最もよく用いられ、大きな段落の締めくくりにも効果的です。
不完全終止（Imperfect Authentic Cadence）
全終止の範疇に含まれますが、完全終止ほど強い終結感を持たないものです。属和音（VまたはV7）から主和音（I）へ進行する点では同じですが、どちらか一方または両方の和音が転回形であったり、旋律の最終音が主音以外で終わったりする場合を指します。ある程度の区切りは必要だが、完全に終わるのではなく、音楽を継続させたい場合に用いられます。
偽終止（Deceptive Cadence）
属和音（VまたはV7）から、主和音（I）ではなく、第VI度上の和音（VI）へと進行して終止する形です。主和音への解決を期待させておきながら、予期しない和音へ進むため、聴き手に意外な印象を与え、「偽終止」と呼ばれます。完全な終止感が得られず、むしろ浮遊感や次に続く予感を生み出します。楽曲が終わりそうで終わらない、さらなる展開を示唆したい場面でよく用いられます。
変終止（Plagal Cadence）
下属和音（IV）などから主和音（I）へと進行する終止です。属和音からの進行による全終止と比べると、より柔らかく穏やかな響きを持ちます。教会音楽において、賛美歌の最後の「アーメン」がこの和音進行で歌われることが多いことから、「アーメン終止」とも呼ばれます。十分な終止感は得られにくいですが、古典的な楽曲の最後に、完全終止に付け加える形で用いられることもあります。変格終止とも呼ばれ、完全終止、不完全終止、偽終止といった「正格終止」と対比されます。フレデリック・ショパンやクロード・ドビュッシーなどが好んで使用したことでも知られています。
半終止（Half Cadence）
属和音（V）で終止する形です。主和音へ解決しないため、完全な終止感はなく、途中の区切りを示す役割が主となります。問いかけや中断のような効果を生み出し、小さな段落の最後に多く用いられます。稀に、下属和音（IV）で終止する場合もあり、これも半終止の一種（Plagal half cadence）として扱われることがあります。
その他の終止形
上記の主要なもの以外にも、特定の音楽様式や作曲家に見られる様々な終止形が存在します。例えば、属七の和音の第3転回形から主和音の第1転回形へ進行するEvaded cadence（回避終止）、短調における下属和音の第3音を半音下げた和音から主和音へ進行するMinor plagal cadence（完全変終止）、あるいはレオシュ・ヤナーチェクが用いたとされるMoravian cadence（モラヴィア終止：IVadd6 → I6）などがあります。また、短調におけるフリギア半終止（Phrygian half cadence）やリディア終止（Lydian cadence）、ブルゴーニュ楽派に見られるBurgundian cadence（ブルゴーニュ終止）など、特定の旋法や歴史的背景に由来するものもあります。
女性終止
和音の進行自体ではなく、終止が置かれる拍の位置による分類として「女性終止（Feminine Cadence）」があります。これは、楽曲の強拍ではなく、弱拍で終止するものを指します。ポーランドの民族舞曲であるポロネーズなどに見られる特徴です。
このように、終止は単に音楽を終わらせるだけでなく、その種類や使い方によって、楽曲の構成を明確にし、様々な表情や感情を表現するための不可欠な要素となっています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。