カルビン

カルビンとは

カルビン(carbyne)は、炭素原子が鎖状に連なったポリマー、または1配位の炭素ラジカルの総称として用いられる言葉です。炭素の多様な構造の一つであり、特異な性質を持つことから、近年注目を集めています。

カルビンポリマー

カルビンポリマーは、炭素の単体（同素体）の一種で、黒色の粉末として存在します。sp混成の炭素原子が、それぞれ2つの炭素原子と共有結合し、直鎖状に繋がった構造を持ちます。その構造は、三重結合と単結合が交互に繰り返されるポリイン構造と、二重結合が連続するクムレン構造という2つの極限構造式で表現されます。


−C≡C−C≡C−C≡C−C≡C−C≡C



=C=C=C=C=C=C=C=C=C=


これらの構造は共鳴し合い、実際にはその中間的な構造をとると考えられます。

主な炭素の同素体としては、グラファイト、ダイヤモンド、無定形炭素が挙げられます。グラファイトはsp2炭素が平面的に結合した層状構造、ダイヤモンドはsp3炭素が正四面体型に結合した三次元構造、無定形炭素は一定の結晶構造を持たないものです。フラーレンやカーボンナノチューブといったナノカーボン類が発見されるまでは、これらの3つが代表的な炭素の同素体として知られていました。しかし、カルビンはこれらの同素体とは異なり、非常に不安定であるため、詳細な性質はまだ十分に解明されていません。

その不安定さから、カーボンナノチューブや超多孔質の活性炭などの原材料としての利用が期待されています。また、カルビン構造を安定化させる試みも行われており、末端に立体障害となる部位を導入したり、ロタキサン構造の軸として利用する方法が報告されています。特に、Lagowらの研究では、レーザー光を照射することでより長い鎖状構造への変換が確認されています。さらにChalifouxらは、末端をtert-ブチル基で保護することで安定化させ、t-Bu-(C≡C)10-t-Buまでの様々な分子を合成し、X線構造解析によりその結合交代を調べています。その結果、炭素数の増加に伴い、三重結合と単結合の長さが近づき、ポリイン構造からクムレン構造に近づくものの、その傾向は次第に飽和し、無限長の炭素鎖においてもポリイン構造が安定であることが示唆されています。

1配位炭素ラジカルとしてのカルビン

カルビンは、1配位で価電子を5つ持つ炭素ラジカル(R-C:•)の名称でもあります。[カルベン]は2配位で価電子を6つ持つ炭素種ですが、そこからC-R結合がホモリシス開裂して生成する化学種に相当します。

カルビン錯体

有機金属化合物の一種であるカルビン錯体は、構造が形式的に金属-炭素三重結合(R-C≡M)で表されます。アルキンメタセシスの触媒としてMooreらが開発したモリブデン錯体、Et-C≡Mo[NAr(t-Bu)]3 (Ar = 3,5-Me2C6H3-) は、その一例として挙げられます。

まとめ

カルビンは、多様な炭素の同素体の中でも特異な存在であり、その不安定さから研究が難しい一方で、その性質を活かした応用が期待されています。今後の研究によって、カルビンの更なる可能性が明らかになることが期待されます。

参考文献

Smith, P. P. K.; Buseck, P. R. Science, 1982, 216, 984-6. DOI: 10.1126/science.216.4549.984

関連項目

* カルベン

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