カーネーションの聖母

『カーネーションの聖母』

『カーネーションの聖母』は、イタリアの画家ラファエロ・サンティが1506年から1507年にかけて描いた油彩画であり、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。この作品は、カーネーションを両手に持つ若き聖母マリアが、幼児キリストを愛情深くあやしている様子を描くことで、多くの人々に親しまれています。カーネーションの花は、通常「神の花」と称され、キリストの受難の象徴として美術作品にしばしば使用される素材です。キリスト教の伝承では、カーネーションはキリストが磔刑にされた際、聖母マリアが悲しむ姿を象徴的に表現する花として知られています。

美術的背景と構図

『カーネーションの聖母』は、初期フランドル派の影響が見受けられる暗い室内での光の扱いが特徴です。聖母マリアと幼子キリストが浮かび上がるように描かれており、特に壁の半円形の窓から見える外の自然界は、ラファエロの独自の視点で彩色されています。この外の風景には、崩れた建物が描かれており、これが暗示するのは、キリストの誕生によって異教の世界が終焉を迎えたというメッセージです。特に、マリアと風景を結ぶ青と緑の配色は、ラファエロ特有の美学を反映しています。

作品の由来と依頼主

この作品のサイズは、時祷書よりもやや大きい程度で、持ち運びしやすい小さな版画のようなものであると考えられています。そのため、祈りを捧げる際に手元に置くための作品であったとの見解があります。正確な依頼主については不明ですが、1850年代の文献から、ペルージャのオッディ家のマッダレーナ・デッリ・オッディが関与している可能性が指摘されています。

ラファエロ作品としての評価

1991年には、ノーサンバーランド公ラルフ・パーシーが所蔵していた『カーネーションの聖母』が、ルネサンス美術の専門家であるニコラス・ペニーによって確認され、ラファエロによる真作と評価されました。しかし、その後の研究者たちは、この作品が1853年に存在していたことに注目し、オリジナルのラファエロ作品から生じた模写だと考えました。

文化遺産宝くじ基金とナショナル・アート・コレクション・ファンドの支援を受け、ナショナル・ギャラリーはこの作品を3,488万ポンドで購入しました。購入の後、イギリス各地で展覧会が開催され、広く作品が紹介されることになりました。しかし、デジデーリオ・クルッツィなどの専門家がペニーの真贋鑑定に対する異議を唱え、ラファエロの真作であることに疑問を投げかけ始めました。2007年にはアメリカの美術史家ジェームズ・ベックがこの問題について取り上げ、ナショナル・ギャラリーの立場に異議を唱えるなどして、真作としての評価にさらなる疑問を生じさせています。

『カーネーションの聖母』は、ラファエロ作品の中でもその美しい構図と深い寓意から多くの考察を呼び起こす、重要な作品であり続けています。

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